トラ寺院さらに窮地に、警察は他の動物園も調査へ

「スキャンダルは氷山の一角、病巣は中国と東南アジア全土に」と専門家

2016.06.16
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6月1日にタイガー・テンプルから押収された137頭のトラのうちの1頭。同寺院は野生動物の違法取引で告発されている。(Photograph by Dario Pignatelli, Getty Images)
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 タイの観光名所であるタイガー・テンプルがますます窮地に立たされている。

 タイ国立公園・野生動物・植物保全局(以下、野生動物局)は先日、絶滅危惧種である野生動物の不法所持や野生動物の違法取引など8件の容疑で、タイガー・テンプルと同寺院の院長を地元警察に告訴したと発表した。(参考記事:「解説:タイのトラ寺院に40頭の子トラ死体」

 さらには、同寺院が野生動物の違法取引に関わっていることが明らかになった場合、4月にタイガー・テンプル株式会社に与えられた動物園の営業認可が取り消される可能性もあるという。もし認可が継続されれば、同社は押収されたトラを合法的に買い戻せるようになる。(参考記事:「解説:トラ寺院に動物園の認可、トラたちの未来は」

 今月始め、野生動物局は同寺院で飼われていた137頭のトラを押収。その際、冷凍や瓶詰めにされた40頭の子トラの死体や毛皮のほか、絶滅危惧動物の体の部位や、それを素材とした製品が隠された貯蔵庫を発見した。院長の私邸からは、トラの皮が見つかっている。

 寺院から移送されたトラのうち、メスが10頭ほど乳を分泌していたにもかかわらず、生きている子トラは1頭もいなかった。

 6月7日、警察は寺院から50キロほど離れた邸宅の強制捜査を行い、フェンスに囲まれた敷地内に4頭のトラがいるのを発見した。モントリー・パンチャローン警察大佐は、声明の中でこう述べている。「ここは、殺す予定のトラをタイガー・テンプルが入れておく場所だったと我々は見ています。ここで殺したトラの皮、肉、骨を国外へ輸出したり、ツアー客にトラ肉をふるまう国内のレストランに運んでいたのです」。ここで働いていた2人の管理人は身柄を拘束されており、当局は財産を差し押さえて所有者の行方を探している。(参考記事:「中国、動物園のトラが食用に」

 邸宅で発見された4頭のトラと寺院のトラとの関係性を調べるため、現在、血液サンプルの分析が行われており、この作業には少なくとも2週間かかるという。

 寺院側は9日に開かれた記者会見において、一連の騒動後初めて公の場で反論を行った。寺院の支持者で元政治家のシリ・ワンブンカード氏はこう述べている。「トラを使った製品や子トラの死体について院長は何も知りませんでした。ああした製品は、院長に隠れてトラの死体を持ち込んだ寺院の職員が、こっそり作っていたものです」

6月1日、鎮静剤を投与したトラを運び出す野生動物局の職員。(Photograph by Dario Pignatelli, Getty Images)
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 寺院は公表したプレスリリースの中で、野生動物局が彼らを「脅し」、敷地内で見つかったトラの死体が販売を目的としたものだったと主張して寺院の「名誉を毀損」したと訴えている。

 彼らはまた、野生動物局が捜査令状をとってトラを押収したのは、「法の支配」に反する行為だと主張している。

 しかし、タイガー・テンプルのプーシット・(チャン)・カンティタロ院長は、トラが政府施設に移送される前から公の場に姿を見せておらず、予定していた声明の発表も行っていない。タイのザ・ネーション紙は、院長は急性心臓発作を起こしたものの、その後、寺院敷地内でゴルフカートに乗って記者に手を振る姿が目撃されていると伝えている。(参考記事:「トラ寺院、闇取引のからくり」

土地利用にも問題?

 タイガー・テンプル株式会社による動物園計画の障害となりそうな要素は他にもある。寺院に隣接する4ヘクタールの動物園用地は、農業・造林用区域に指定されており、建物の建設や商業目的に利用できない可能性があるのだ。

 またタイPBSテレビなどの報道によると、寺院自体が土地利用の取り決めに反して、国有林の中にまで敷地を広げている疑いがあるという。この土地は、農地改革局が寺院に対し、宗教目的に限って利用を許可しているものだ。

 6月5日には農地改革局の視察が入り、寺院の敷地が、国が許可した広さよりも150ヘクタール以上拡張されており、宗教と無関係の高層商業ビルも複数建てられていることが判明した。

 現在進められている取り調べでこの事実が確認されれば、寺院は森林地への不法拡張によって閉鎖、あるいは別の場所に移転となるかもしれない。

 バンコク・ポスト紙によると、警察は国内での野生動物の違法取引に関する捜査を拡大しており、この先30カ所の動物園を調査する予定だという。

 英国ロンドンのNGO「EIA(Environmental Investigation Agency)」のスタッフで、トラの専門家であるデビー・バンクス氏は言う。「タイガー・テンプルで進行中のスキャンダルは氷山の一角、病巣は中国と東南アジア全土に広がっているのです」(参考記事:「密猟象牙の闇ルートを追う」「略奪される歴史 文化財の闇取引を追う」

 一方、寺院のトラを収容している政府施設では現在、飼育係がトラの健康状態をチェックしながら、寺院で与えられていた茹でた鶏肉から、より適切な栄養を摂取できる生の赤身肉へと餌を徐々に替えていく作業を進めている。

特別捜査
違法取引への関与が疑われる、タイのタイガー・テンプル。寺院から消えた3頭のトラには、いったい何が起こったのか。(説明は英語です)
【参考記事】トラ147頭を飼う寺院がトラを闇取引、タイ(特報:タイガー・テンプル闇取引レポート)

文=Sharon Guynup/訳=北村京子

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