解説:タイのトラ寺院に40頭の子トラ死体

タイガー・テンプルはなぜここまで巨大化したのか(前編)

2016.06.08
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「見て見ぬふり」で147頭に

2頭の子トラと遊ぶプーシット・(チャン)・カンティタロ院長。(Photograph by Steve WInter, National Geographic Creative)
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 タイガー・テンプルをめぐる騒動は、2001年、野生動物局がこの寺に7頭のトラがいることを認識したときから始まった。同寺院のプーシット・(チャン)・カンティタロ院長は、絶滅の危機にある動物を飼育するための適切な許可を得ておらず、「我々はトラの所有権を没収したのです」とアディソン氏は言う。

 しかし当時、野生動物局にはトラの世話をするためのノウハウも適切な施設もなかったため、結局は寺院が引き続きトラを飼育することとなり、同寺院に対しては、トラを繁殖させないこと、金儲けの道具に使わないこととの命令が下された。寺院側はこの指示を無視し、当局側も見て見ぬふりをした。寺院はやがて大金を生み出す観光スポットとなり、2015年4月の時点で、トラの数は147頭にまで膨れ上がった。

 2014年12月には、マイクロチップを装着して政府に登録済みの雄のトラ3頭が寺院から姿を消した。以来、地元警察による捜査が続けられてきたが、誰ひとり罪に問われることはなかった。

 同寺院はこのほか、ツキノワグマ6頭、サイチョウなどの希少な鳥38羽の違法所持でも係争中の状態にある。これらの動物は、2015年春に野生動物局が行ったそれぞれ別の強制捜査によって押収されたものだ。以前の視察において目撃されていたキンイロジャッカル2頭とマレーヤマアラシ2匹は、役人が出向いて保護する前に姿を消した。

 こうした動物たちはすべて絶滅危惧種であり、タイの野生動物保全・保護法と、タイを含む182カ国が批准する「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES、通称ワシントン条約)」によって保護されている。(参考記事:「世界の野生トラが回復、過去5年で20%増」

トラ3頭の消失事件

 2016年1月、ナショナル ジオグラフィックは、寺院から消えた3頭のトラが殺害され、夜間に運び出されたという疑惑に関する記事を掲載した。またオーストラリアの環境保護NPO「Cee4life(シー・フォー・ライフ)」は、少なくとも2004年以降、同寺院では数多くのトラが運び出されたり、持ち込まれたりしていると訴える報告書を公表した。

 この記事にも「Cee4Life」の報告書にも、トラが姿を消していることに関する元職員やボランティアの証言が登場する。「Cee4life」の報告書と共に公開された動画や音声記録からは、院長が現状を認識しており、トラの闇取引に関与している可能性もあることが伺える。(参考記事:「トラ寺院、闇取引のからくり」

「Cee4life」の創設者シビル・フォックスクロフト氏の記録によると、1999〜2015年の間にこの寺院にいたトラは計281頭であり、この数は昨年、政府の視察官が確認した147頭のほぼ2倍にあたる。「では消えたトラたちには、いったい何が起こったのでしょう」とフォックスクロフト氏は言う。

 昨年12月に行われたインタビューの中で、院長秘書のジャクリット氏は、同寺院がラオスのトラ飼育場と国境を越えた取引を行い、寺院の雄1頭を雌1頭と交換したことを認めている。「Cee4Life」は、5月に野生動物局に提出した報告書の補遺において、また別の違法行為、すなわちタイガー・テンプルによるトラの体の部位の売却、贈与、国外への輸送について告発した。批評家らは、これが先日のジャクリット逮捕の法的根拠となったのではないかと見ている。

【動画】「特別捜査」:違法取引への関与が疑われる、タイのタイガー・テンプル。寺院から消えた3頭のトラには、いったい何が起こったのか。

設立されたタイガー・テンプル株式会社

「Cee4Life」の報告書とナショジオの記事において、重要な情報提供者となったのが、当時は安全への懸念から身元を隠していたある内部の人間だ。先週、自らの身元を明かしたスーチャフォン・ブーンサーム氏は、タイガー・テンプルで無償の法律アドバイザーとして働いていた人物だ。自分が名乗り出たのは、「真実を語り、他のトラたちと自分自身を守るため」だと彼は言う。

 スーチャフォン氏はバンコク・ポスト紙でのインタビューで、院長は寄付金や観光客から得た収入を、ドイツ、チェコ、オーストリアにタイガー・テンプルをつくるために使ったと述べている。

 一方、寺院側は、スーチャフォン氏を業務上の違法行為で訴え、彼の法律家としての資格停止を画策している。スーチャフォン氏は大いに身の危険を感じており、数日おきに居場所を変えなければならない状況にあるという。

 報道記者のアンドリュー・マーシャル氏がシドニー・モーニング・ヘラルド紙に寄稿した記事からは、なぜ捜査にこれほどの時間がかかったのか、その理由の一端が見えてくる。2010年、マーシャル氏は、タイガー・テンプルが当時、タイの警察と軍に70万バーツ(当時でおよそ188万円)の寄付をしていたことを突き止めた。地元カンチャナブリーの元警視監スピポーン・パクジャルーン氏は現在、タイガー・テンプル財団の副代表の座に収まり、動物園開園計画の一環として寺院が新たに設立したタイガー・テンプル株式会社を取り仕切っている。(参考記事:「消えゆく王者 トラ」

後編につづく

【参考記事】トラ147頭を飼う寺院がトラを闇取引、タイ(特報:タイガー・テンプル闇取引レポート)

文=Sharon Guynup/訳=北村京子

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