NASAの探査機ニュー・ホライズンズが冥王星の帯状の領域を最高の分解能で撮影した画像。(NASA/JHUAPL/SWRI)
NASAの探査機ニュー・ホライズンズが冥王星の帯状の領域を最高の分解能で撮影した画像。(NASA/JHUAPL/SWRI)
[画像をタップでギャラリー表示]

 冥王星で最も目立つ、明るいハート形の領域「スプートニク平原」は、地質学的に「生きている」ことが明らかになった。

 『ネイチャー』6月2日号に発表された2本の論文では、スプートニク平原の下にある氷の対流が、その表面をたえず新たに覆い直し、多角形のパターンを作り出しているという発見が報告されている。

 一見穏やかそうな平原の西半分では、比較的温度の高い窒素の氷が、下からたえずわき上がってきている。新たに表面に到達した氷は横に広がり、クレーターやその他の痕跡を消し去り、この領域を若々しく保っている。

 スプートニク平原に見られる多角形のパターンも、わき上がってきた氷が作り出している。その形は、氷床のゆっくりした動きとともに変化していくと考えられる。

 米ワシントン大学のビル・マッキノン氏は、「この領域は鼓動しています。実際に活動しているので、人類が10万年後に同じ場所を再訪することがあれば、パターンは大きく変化しているはずです」と語る。(参考記事:「冥王星に信じがたい5つの新事実発覚」

 今回発表された2つの研究は、対流している窒素の氷の層の深さなど詳細な点では食い違いがあるが、基本的な主張は同じである。一方の論文の共著者である米パデュー大学のアレクサンダー・トローブリッジ氏は、「類似点があることの方に興味があります」と言う。「私たちが導き出した結論は非常によく似ています。科学はこうでなければなりません」

【画像】超精細、冥王星の最高解像度画像(リンク先でスクロールしてごらんください)

次々にわき上がる氷

 NASAの無人探査機ニュー・ホライズンズが2015年7月に冥王星への接近通過を行ったとき、科学者たちは、冥王星の地形や色、氷の様子が、低温の太陽系外縁部で作られたものとしてはきわめて多様であることに驚いた。太陽から遠く離れた太陽系外縁部では、太陽からの熱がほとんど届かないため、すべてがその場で凍りつき、太陽系が誕生した当時から、死んだ破片が円盤状になって太陽系を取り巻いていると思われていたからだ。(参考記事:「冥王星“接近通過”をめぐる10の疑問に答える」

 スプートニク平原は、冥王星の特異な地形の1つで、差し渡しは約1200kmもある。冥王星のように古い天体の表面はクレーターだらけになっているはずなのに、スプートニク平原の滑らかな表面はあまりにも若々しく、周囲の山々から流れ下ってきた氷河が氷原に氷を供給しているように思われた。

 詳しく観察すると、平原は多角形のパターンで埋め尽くされていて、それぞれの多角形は中心部分がわずかに高くなっていた。これを見たマッキノン氏は、多角形のパターンはスプートニク平原の下にある氷の対流によって作り出されたのかもしれないと提案した。実は、スプートニク平原の正体は巨大な盆地で、くぼみに柔らかい窒素の氷が堆積することで平原のように見えているのだ。

 スプートニク平原の下の対流をイメージするには、オートミール粥を温めるときの泡立ちをスローモーションで思い浮かべてみてほしい。「オートミールが泡立ってくると、その表面は多角形の領域に分割されます。コンロの火がついているときには多角形の中心部が盛り上がりますが、火を消すとつぶれます」と、トローブリッジ氏は説明する。

 冥王星の内部にある放射性元素は、今日でも放射性崩壊により熱を発生していて、その熱が差し渡し10~40kmの多角形のセル構造を作り出しているのだ。「これらは非常にユニークな構造です。太陽系のどこを見ても、これほどの規模のものはほかにありません」とトローブリッジ氏。

ニュー・ホライズンズが撮影した冥王星の画像を組み合わせて高分解能画像を作成した方法を説明する。(解説は英語です)

どんどん塗り替える

 新たな研究に基づく計算によると、スプートニク平原の表面は50万~100万年で完全に置き換わるという。つまり、地球上でサーベルタイガーが生きていた時代には、この領域の風景は今とはまったく違っていたことになる。科学者たちは、地球の平均40倍も太陽から遠く離れた小さな氷の天体で、これほど高速な地質過程を目にするとは予想していなかった。

 ポール・シェンク氏とフランシス・ニモー氏も、『ネイチャー・ジオサイエンス』に寄せた論説で、「太陽系の外縁の、地球とは大きくかけ離れた環境に、地球や火星にあってもおかしくないような構造が見つかった」と述べている。

 冥王星の対流について報告した2つの研究チームは、窒素の氷の層の厚さについては意見が分かれている。その正解が明らかになれば、冥王星の鼓動するハートの成り立ちについてもなんらかの事実が明らかになるだろう。

 マッキノン氏は、「すばらしいのは、このプロセスを理解できれば、冥王星の内部で起きていることも明らかになる点です」と言う。「『スプートニク平原の表面は、対流によってわき上がってきた氷に覆われているように見える』と言うことと、そのしくみを解明することとは、まったくの別問題なのです」。

 現時点では、スプートニク平原は、底が平らな衝突盆地に、冥王星全体の窒素が集まっている場所である可能性が高い。2本の論文と同時に発表された別の論説の執筆者であるアンドリュー・ドンバード氏とショーン・オハラ氏は、窒素をこの場所に集めたのが気候の作用なのか氷河の作用なのかはまだ分からないと言う。

 冥王星のハートの謎を解き明かし、太陽系に唯一の構造であるかどうかを決定するには、さらなる研究が必要だ。マッキノン氏は、冥王星の近くにあるエリスやマケマケなどの大きな天体にも似たような構造があるかもしれないと言う。(参考記事:「冥王星の「踊る」衛星を発見、ハッブル望遠鏡」

「冥王星は、予想以上に活動的な天体です。同じくらいの大きさのほかの準惑星にも少なくとも同じレベルの活動があると考えるのは、理にかなっていると思います」(参考記事:「ここまで鮮明に! 冥王星の写真の変遷を見てみよう」

文=Nadia Drake/訳=三枝小夜子