北米最初の人類に新たな証拠、マストドン狩猟も

アメリカ大陸への人類定住は従来説より早かった

2016.05.19
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1万4500年以上前、湧水池はマストドンや初期アメリカ人にとって、重要な水源の役割を果たしていた。この場所は現在、米フロリダ州アウシラ川の底に沈んでいる。(Illustration by Greg Harlin)
1万4500年以上前、湧水池はマストドンや初期アメリカ人にとって、重要な水源の役割を果たしていた。この場所は現在、米フロリダ州アウシラ川の底に沈んでいる。(Illustration by Greg Harlin)
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 米国フロリダ州の川底にある1万4550年前の堆積物から、“両面加工”の石包丁をはじめとする石器の数々が発見された。これまで考えられていたよりも早い時代にマストドンなどの動物たちとともに、人類が定住していたという。

 見つかった場所はアウシラ川にある「ページ=ラドソン」と呼ばれる陥没穴。調査責任者のひとりである米テキサスA&M大学のマイケル・ウォーターズ氏は、ここに人類が暮らしていた「疑う余地のない」証拠だと語る。調査の成果は、5月13日付け学術誌『Science Advances』に発表された。

 しばらく前まで、専門家の間では、「最初のアメリカ人」は1万3000年前にやってきた狩猟民であるというのが常識だった。彼らが残した特徴的な石器は、最初に出土したニューメキシコ州の街にちなみ、クロービス尖頭器と呼ばれている。しかし最近になって、南米チリや米国の各州でクロービスよりも前の時代に人類が定住していた有力な証拠が見つかっており、今回、ページ=ラドソン遺跡もそのリストに加わることになった。(参考記事:「クロービス文化の起源、定説に疑問」

 論文の主執筆者であるフロリダ州立大学のジェシ・ハリガン氏のチームは、アウシラ川底にある堆積層を丁寧に掘り出して放射性炭素年代測定を行い、ここから出土したチャート製の石器と剥片が、明らかに人類の手によって加工されたものであることを突き止めた。(参考記事:「米先住民の起源はアジア、DNA分析」

アウシラ川の底にある陥没穴から発見されたマストドンの牙。新たな研究により、人の手が加えられた明らかな痕跡が見つかった。(Photograph by DC Fisher, Univ. Michigan Museum of Paleontology)
アウシラ川の底にある陥没穴から発見されたマストドンの牙。新たな研究により、人の手が加えられた明らかな痕跡が見つかった。(Photograph by DC Fisher, Univ. Michigan Museum of Paleontology)
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アイスティーのような川に潜る

 川底の発掘は非常に難しいことで知られるが、アウシラ川には特殊な事情があった。フロリダ北部の石灰岩カルストを流れるこの川は、地下を流れている部分が長いおかげで流速が遅くなり、堆積層が比較的荒らされずに残っていたのだ。

 アウシラ川の水は植物のタンニンで黒ずんでおり、「まるでアイスティーの中に潜っていくような気分でした」とハリガン氏は言う。「それでもちゃんと装備して、普段よりもさらに忍耐力と気力を発揮すれば、陸上と同じように厚い堆積層の発掘を進めることができます」

 現場は、アウシラ川が地上に現れた範囲にある深さ9メートルほどの陥没穴。更新世の末期は現在よりも海水面が90メートルほど低く、一帯は非常に乾燥していたため、この陥没穴も当時は川底にあったわけではなく、動物や人間の水場となる湧水池だったと考えられる。

 今回見つかったクロービス以前の石器と関連する層からは、現在は絶滅した動物たちの死骸の一部が見つかった。先史時代のラクダやバイソンの仲間、マストドンの骨などだ。さらに、過去の調査で発見されたマストドンの牙を分析したところ、人の手によって加工された明らかな痕跡が見つかった。

ジェシ・ハリガン准教授の調査チームは、アウシラ川のページ=ラドソン遺跡から複数の骨と石器を発掘した。(Photograph by Bruce Palmer, Florida State University)
ジェシ・ハリガン准教授の調査チームは、アウシラ川のページ=ラドソン遺跡から複数の骨と石器を発掘した。(Photograph by Bruce Palmer, Florida State University)
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排泄物の痕跡から絶滅時期が

 もうひとつ重要な発見をもたらしたのが、スポロルミエラ属という菌の分析調査だ。この菌が生存できるのは、マンモスやマストドンなどの大型草食動物によって摂取・排泄される環境だけだ。

「こうした動物が北米の南西部、北西部、東部で絶滅した時期はかなり正確にわかっていますが、南東部での絶滅時期ははっきりとわかっていませんでした」とウォーターズ氏は語る。

 今回の調査によって、スポロルミエラ属は、およそ1万2600年前にページ=ラドソンの堆積物から姿を消していることがわかった。これはちょうど氷河期の大型動物が大陸の他の地域で絶滅した時期にあたる。(参考記事:「クロービス以前、マストドンの骨解析」

「絶滅の大きな原因はおそらくは環境の変化でしょう。気候が暖かくなったのです。しかし少なくとも絶滅前の2000年間、人類は大陸にいて、動物たちを利用して暮らしていました」。人類が絶滅に大きく関わっていたのかどうかは、まだわかっていない。(参考記事:「マンモスを絶滅させたのは人間か? 気候変動か?」

【動画】水中で見つかったマストドンの骨と石器
米国フロリダ州のアウシラ川で発見された先史時代のマストドンの骨と石器。これらの遺物は1万4550年前のものであることが判明しており、北米南東部への人類定住は、従来説より1500年ほど早かったことになる。(解説は英語です)

水中に眠る先史時代の遺跡

 米国ペンシルベニア州にあるもう一つのクロービス以前の遺跡メドークロフト・ロックシェルターを発掘するジェームズ・アドバシオ氏は、アメリカ大陸への人類の到達についてこう語る。「複数の方角から、かなりの長期間にわたって行われました。フロリダ州は、北米ではベーリング海峡から最も遠い位置にあります。もし1万4500年前にフロリダに人類がいたとすれば、その時点でアメリカ大陸のあちらこちらに人類がいたはずです」

 ウォーターズ氏は今回のページ=ラドソン遺跡について、北米各地にある遺跡の中でも、クロービス文化以前に人類が定住していたことを示す最も強力な証拠であると言う。

「我々が発掘した遺物は、時代が明確にわかっている地層に埋まっていました。厚さ4メートルの堆積物に覆われ、さらには堆積物をすっぽりと包む層があり、その層自体が1万4400年前のものなのです。調査全体を通して、我々は71回にのぼる放射性炭素年代測定を行いました。もしこれを信じないという人がいるなら、その人は何を言っても信じないでしょう」

 ハリガン氏とウォーターズ氏はこの先、さらに多くの水中遺跡の発見を目指すとしている。国内の数少ない水中発掘の専門家であるハリガン氏はまた、アウシラ川流域の発掘をより体系的に進め、古代の堆積層がある場所を特定したいと考えている。

「この研究を契機として、先史遺跡の水中調査が活発になることを願っています。難破船を見つけるのは簡単ですが、こうした水中の先史遺跡を発見するのは難しいものなのです」

【もっと詳しく知るには】2015年1月号特集「アメリカ大陸 最初の人類」

文=Glenn Hodges/訳=北村京子

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