甘党であれ辛党であれ、誰しもお気に入りのお菓子があるだろう。おもしろいことに動物たちの中には、そのお菓子によく似た匂いを持つものがいるので、いくつかご紹介してみたい。(参考記事:「スカンクはなぜ悪臭を放つのか」)
ポップコーン
東南アジアのビントロング(Arctictis binturong)は別名クマネコと呼ばれるが、実際はジャコウネコの仲間に近い、森にすむ捕食者だ。彼らの体は熱々のバターポップコーンのような匂いがする。(参考記事:「【動画】サイの背に乗るジャコウネコ、目的は?」)
学術誌「The Science of Nature」に今月発表された論文によると、このいかにもおいしそうな香りは、ビントロングの尿に含まれる2-アセチル-1-ピロリン(2-AP)という物質によるものだ。
ビントロングが排尿すると、脚やふさふさとした尾に尿がかかり、移動時に道に匂いをつけて他の個体に自分の存在を知らせる役割を果たす。オスの尿の方が2-APの濃度が濃いため、おそらくは匂いで性別もわかると思われる。
この2-APは、できたてのポップコーンの美味しそうな香りを出している物質そのものだ。ポップコーンの粒が熱せられると、タンパク質と糖が化学反応を起こして2-APに変化する。
ビントロングの場合、尿が腸や皮膚、毛皮にいる細菌などの微生物と反応し、2-APが作られていると推測される。
コーンチップス
お菓子の匂いを持つ動物は他にもいる。家庭で飼われているイエイヌの肉球は、コーンチップスの匂いがすると言われている。(参考記事:「イヌはなぜサイレンで鳴く? 遠吠えの様々な理由」)
この匂いの原因はおそらく、酵母菌、あるいはプロテウス属やシュードモナス属の細菌であり、米マサチューセッツ州タフツ大学の獣医動物行動学者、ニコラス・ドッドマン氏によると、これらはどれも「湿り気があって風通しの悪いイヌの足先で、よく繁殖する」のだという。
米メリーランド大学ゲノム科学研究所の博士研究員、アン・エステス氏は言う。「酵母菌や細菌が放つ匂いは、彼らの代謝廃棄物であり、いわば汗のようなものです」
なぜ微生物があえてコーンチップスのような匂いを放つのかは定かではないが、エステス氏によると、そうした匂いは「人によって違うものの匂いに感じられることもある」そうだ。
この匂いは心配するようなものではないが、もしあまりきつくなるようなら、獣医に連れていった方がいいだろう。(参考記事:「犬の遺伝子を科学する」)
レモンドロップ
アメリカ全土で見られるシトロネラ・アント(Lasius interjectus)というケアリの仲間からは、レモンドロップの匂いがする。
カナダ、アルバータ大学の博物学者、ジョン・アコーン氏によると、このアリに限らず、多くのアリは噛み付いたり、蟻酸という無色の液体をまいたりして身を守る。
蟻酸はクエン酸とよく似た味と匂いを持っており、アリからレモンやシトラスのような匂いがするのはそのためだ。(参考記事:「アリが「公衆トイレ」を持つと判明」)
アーモンドとチェリー
アーモンド=センティッド・ミリピード(訳注:アーモンドの香りがするヤスデの意、学名 Harpaphe haydeniana)と呼ばれる北米のヤスデは、その名の通りアーモンドの匂いがする。また米国に生息するフラット・ミリピード(Apheloria virginiensis)というヤスデは、チェリーやアーモンド、あるいはチェリーコークに似た匂いを発する。
こうした匂いの元は体内で作られるシアン化物で、彼らはこれを噴射して捕食者を追い払う。(参考記事:「【動画】新種の光るヤスデを発見」)
ミント
最後はミントでスッキリと締めよう。
米北東部とカナダに生息するホワイト・アドミラル(Limenitis arthemis)というオオイチモンジチョウの仲間は、ウィンターグリーンというよい香りを放つ低木と同じ匂いがする。
米アリゾナ大学の昆虫学者、ケイティ・プルディック氏によると、このチョウはウィンターグリーンの花の蜜を吸うことにより、匂いを放つようになるという。カバイロイチモンジ(Limenitis archippus)という別種のチョウも同様だ。
彼らはその匂いをどうやって放出するのだろうか。「体に糞をつけられたら、匂いもつきますよ」とプルディック氏は言う。
この他、オーストラリアにはペパーミント・スティック・インセクト(Megacrania batesii)という体長10センチほどのナナフシの仲間もいる。彼らは身の危険を感じるとペパーミントの香りがする有毒の液体を噴射する。
だからといって、気分を害さないでほしい。だって、いらいらするともっとひどいものを放つ人々があなたの周りにもいるでしょう?