「赤い象牙」もつサイチョウ、密猟で絶滅の危機に

密猟の横行で、危機レベルを3段階引き上げ

2016.03.23
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オナガサイチョウのくちばしと、カスクと呼ばれる硬い突起の部分。インドネシアの森林管理官が密猟者から押収したものだ。(PHOTOGRAPH BY JEFTA IMAGES, BARCROFT MEDIA, GETTY IMAGES)
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 オナガサイチョウは、東南アジアの熱帯林に生息する大きな鳥だ。甲高い声で鳴き、白黒2色の長い尾をもち、短く突き出たくちばしの上には「カスク」と呼ばれるヘルメットのような突起がある。硬い突起はケラチンという、動物の爪や毛、くちばしなどを構成するタンパク質でできている。

 カスクは、オスのサイチョウが空中で互いの頭をぶつけ合って戦うときに使われる部位だ。だが、このカスクが原因で、サイチョウたちは苦しい状況に追い込まれている。オナガサイチョウの赤いカスクに彫刻を施して加工したものは「赤い象牙」と呼ばれて珍重されてきた。2011年頃、中国の新興富裕層の間でその需要が爆発的に増加し、インドネシアでオナガサイチョウが大量に殺される事態を招いたのだ。(参考記事:「インド、政権交代で希少な鳥が絶滅?」

危機レベルを3段階引き上げ

 スマトラ島とボルネオ島の熱帯林では、組織的な犯罪シンジケートが地元の住民を雇い、見つけたサイチョウは種類を問わず殺させている。彼らの狙いは高値で取引されるオナガサイチョウにあると、鳥類の保護に取り組む国際組織「バードライフ・インターナショナル」のナイジェル・カラー氏は説明する。

 オナガサイチョウは、植物の種子の拡散に重要な役割を果たしている。森林の生態系を健全に保つために必要な生物であり、それだけで保護に値する存在だ。(参考記事:「太古の森にすむ巨鳥 ヒクイドリ」

 現在、彼らはすでに絶滅の危機にさらされている。繁殖するのは年1回きりで、ひなは1度に1羽しか生まれない。メスはひなと一緒に大木のうろに入って出入り口をふさぎ、オスが運ぶ餌を頼りにひなを育てる。その期間は最長で5カ月間に及び、もし子育て中のオスが殺されれば、つがいのメスとひなも死んでしまうだろう。(参考記事:「空を彩る妖精 ハチクイ」

 巣をつくるための木も減っている。オナガサイチョウが繁殖するには豊かな森が必要だが、そうした森林が伐採の対象となっている。しかも、営巣に最適なうろのあるような大木は、しばしば真っ先に切り倒されてしまう。

【動画】頭の突起が象牙並みに珍重されるオナガサイチョウ。違法な森林伐採と密猟により、絶滅の懸念が高まっている。(解説は英語です)(Video excerpt courtesy Indonesia Nature Film Society)

 2015年10月、オナガサイチョウの保全状態の評価は「近危急種」(near-threatened)から一気に3段階引き上げられ、絶滅の一歩手前である「近絶滅種」(critically endangered)に分類された。これほど急速に保全状態が悪化するのは珍しい。

 英国ロンドンに本拠を置く環境団体「エンバイロメンタル・インベスティゲーション・エージェンシー」(EIA)によれば、2010年から現在までに当局が押収したカスクは1800個以上にのぼるという。EIAはニュースなどの公開情報に基づき、2010~15年にオナガサイチョウが押収された全事例をまとめて地図上に示したものを公表した。地図からは、密輸の拠点や運搬ルート、カスクの取引規模、関与地域の広がりなどが見えてくる。この数字は氷山の一角にすぎず、押収されたのは、実際に密猟されているカスクの2割程度とみられている。

 EIAによると、オナガサイチョウのカスクは主に装飾品や装身具に加工されて流通している。EIAの調査員(安全上の理由で匿名を希望)によれば、中国では最近の経済減速で取引価格がやや下がっているものの、オナガサイチョウのカスクは1グラム当たりの価格が象牙を上回ることもあるという。(参考記事:「密猟象牙の闇ルートを追う アフリカ発 特別調査レポート」

巣穴の外で木に止まるオスのオナガサイチョウ。メスは最長5カ月間、ひなと一緒に巣穴にこもる。(PHOTOGRAPH BY TIM LAMAN. NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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 インドネシア、マレーシア、ミャンマー、ブルネイ、タイの一部の森に生き残っているオナガサイチョウの正確な数は不明だが、殺されている数については推測値がある。サイチョウの研究者ヨキョク・ハディプラカルサ氏が2013年に実施した調査で、ボルネオ島のカリマンタン地域(インドネシア領)では、オナガサイチョウの成鳥が毎月少なくとも500羽殺されていることがわかった。年間6000羽が殺される計算だ。

カスクの彫刻は地元の伝統

 ボルネオ島の人々は、少なくとも2000年にわたってサイチョウのカスクに彫刻を施し、装飾品に加工してきた。だがボルネオが中国と貿易を始めた紀元700年頃から、オナガサイチョウのカスクの流通量が急増したと、カラー氏は鳥類保護団体の会報に掲載された寄稿の中で解説している。カスクは象牙ほど硬くないため、職人たちが緻密な細工をするのに適していた。

 かぎたばこ入れや小さな彫像、装身具まで、オナガサイチョウのカスクを用いた細工物は富とぜいたくの証しになった。だがその需要は20世紀初頭には下り坂となり、原因はわかっていないが、第二次世界大戦の頃にはほとんど取引されなくなった。

 オナガサイチョウが再び密猟・密輸の標的になっているとハディプラカルサ氏が気づいたのは、2012年のことだった。サイチョウのカスクが象牙よりも希少な素材であることや、オナガサイチョウがゾウよりも絶滅の危機に瀕していることが、皮肉にも、ステータスシンボルとしてのカスクの魅力を高めている。

インドネシアのグヌン・ルスル国立公園で押収された銃2丁と、オナガサイチョウのくちばしとカスク。密輸の目的地は中国と日本だった。(PHOTOGRAPH BY JEFTA IMAGES, BARCROFT MEDIA, GETTY IMAGES)
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闇取引の根絶へ向けて始動

 動植物の保全状態を評価する国際自然保護連合(IUCN)によれば、オナガサイチョウの絶滅までの猶予は長くて3世代だという。寿命が長く、繁殖のペースが遅い動物にとっては、極めて深刻な状態だとカラー氏は懸念する。

 オナガサイチョウは国際法だけでなく、中国とインドネシアの法律でも保護の対象となっている。ワシントン条約(CITES:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)では保護レベルが最も厳しく、商業取引は一切認められていない。にもかかわらず、闇市場は活況を呈している。(参考記事:「密猟される動物たち」

「現状が厳しいのは事実ですが、オナガサイチョウを守るうえではチャンスもあります」と話すのは、野生生物の取引を監視するNGO「TRAFFIC」のクリス・シェパード氏だ。「取引をさせないための規制は出そろっています」。つまり必要なのは、ワシントン条約や国内法が守られるようにすることだ。

 2015年の秋には、オナガサイチョウのカスクの闇取引を根絶させようと新たなワーキンググループが発足した。バードライフ・インターナショナルのカラー氏の勧めに応じて、タイにあるマヒドン大学のビー・チュー・ストレンジ氏が、生物学者や保護活動家に呼びかけて対策会議を開いたのだ。ストレンジ氏は、同大学に設立されたサイチョウ調査基金の国際コーディネーターを務めている。このグループには、ハディプラカルサ氏やシェパード氏も参加している。

 同グループが掲げる目標の一つは、インドネシア内でオナガサイチョウの密猟が多発している地域において、取り締まりを行う係官を養成すること。もう一つは、インドネシアで地元の住民たちを巻き込んだ保護プログラムを立ち上げ、中国ではオナガサイチョウの需要縮小に向けたプログラムを実施することだ。

This story was produced by National Geographic’s Special Investigations Unit, which focuses on wildlife crime and is made possible by grants from the BAND Foundation and the Woodtiger Fund. Read more stories from the SIU on Wildlife Watch. Send tips, feedback, and story ideas to ngwildlife@ngs.org.

文=Rachael Bale/訳=高野夏美

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