恐竜と似た声の動物が人類と共存、5万年前に絶滅

トランペットのような声を出す頭骨の構造が恐竜そっくり、ケニアで発掘

2016.02.09
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ドーム状の大きな鼻をしたルシンゴリクス。生息地のケニア、ルシンガ島は当時気温が高く、草原に覆われていた。(Illustration By Todd Marshall)
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 地質年代からすれば“つい最近”の5万年前までケニアに生きていたヌーに似た哺乳類。新たな化石から、恐竜に似た器官を使ってトランペットのような音を出していたことが明らかになった。

 氷期だった7万5000~5万年前のケニア、ビクトリア湖のルシンガ島に、学名 Rusingoryx atopocranion (ルシンゴリクス・アトポクラニオン)という動物が生きていた。当時、島は一面乾いた草地。従来、この種は頭骨の一部のみが産出していたが、最近になって骨や歯を多量に含む地層が見つかり、誰も予想しなかった奇妙な姿が明らかになった。 

 ルシンガ島での最新の発掘により、ルシンゴリクス6頭分の頭骨が産出。幼獣から成獣までそろっており、初めてほぼ完全な化石が入手できた。米オハイオ大学の古生物学者で、今回の論文の筆頭著者であるヘイリー・オブライエン氏は、「初めて見たときには、開いた口が塞がりませんでした」と振り返る。この研究は、ナショナル ジオグラフィック協会研究・探検委員会が支援している。

 完全な化石が見つかるまで、古生物学者らはルシンゴリクスの鼻はバクのようだったのではと推測していた。だが新たな頭骨の発見で分かった姿は、予想もしないものだった。この哺乳類は、空洞のドーム状突起(鼻稜)が両目の前に大きく張り出し、曲がりくねった鼻道がその中に収まっていたのだ。

ルシンゴリクスの頭骨の化石。両目の前に大きく張り出したドーム状の突起がある。(PHOTOGRAPH BY HALEY O'BRIEN)
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「こんな鼻の器官は、現生動物には全くみられません」とオブライエン氏。だが、化石の中には似たものがあるという。カモノハシ恐竜(ハドロサウルス)と呼ばれるコリトサウルスやランベオサウルスの頭には、鼻腔につながった空洞の突起があり、外見も内部もルシンゴリクスの鼻に近い。だが、これらの恐竜が生きていたのはルシンゴリクスより7500万年も前だ。「どちらも鼻を通る気道が鼻稜の中にまで入り込んでおり、鼻稜の骨の構成もよく似ています」とオブライエン氏は話す。(参考記事:「T・レックスから逃れたカモノハシ恐竜」

 他の古生物学者たちも驚きを隠せない。カナダ、ロイヤル・オンタリオ博物館の古生物学者でカモノハシ恐竜に詳しいデイビッド・エバンス氏は、ルシンゴリクスの頭骨に「仰天しました」と話す。「何しろ空洞の鼻稜を持つ恐竜とルシンゴリクスは鼻の構造があまりにそっくりでしたから」

 奇妙な構造の化石を見つけた古生物学者が直面するのが、その風変わりな器官には何らかの機能があったのか、あるとすればどんな機能かという大きな疑問だ。ルシンゴリクスの場合は、「消去法を使いました」とオブライエン氏。(参考記事:「プロトケラトプスのえり飾りは求愛のため、新説」

 オブライエン氏によれば、初めに出た案は「鼻が長ければ、入って来る外気を冷ましたり温めたりするのに適している」というものだった。哺乳類は全てこの能力があり、例えば人間は、鼻甲介(びこうかい)という渦巻き形の骨が鼻の内部の表面積を広げることでこれを可能にしている。ルシンゴリクスが「今よりも暑く乾燥したサバンナに暮らしていた」ことを考えれば、その鼻は高性能エアコンのような役割を果たしていたかに思えたとオブライエン氏は言うが、空洞内部の解剖学的分析で、この用途は否定された。

 次に考えられた機能が、戦闘だ。特に有蹄の草食動物は、バイソンからビッグホーンに至るまで、頭突きのけんかをする。そのような動物は頭骨と角が非常に硬いが、ルシンゴリクスはそうではなかった。オブライエン氏は、「ルシンゴリクスの頭骨は信じられないほど薄く、この空洞部分で頭突きをするのは危険すぎます」と話す。(参考記事:「にらみ合う2頭の雄のジャコウウシ」

「最後に残った案が、鳴き声です。当初は望み薄でしたが、他の偶蹄目の発声行動を見てみると、そうでもないと気が付きました」。群れを成す有蹄草食動物の多くがさかんに鳴き声を交わしており、声道を調節してさまざまなサインを表現できる。ルシンゴリクスもそうだった可能性が強まり、解剖学的分析も音響モデルもこの仮説に一致した。「解剖学、物理学の計算、現生偶蹄目の鳴き方、いずれの点でも発声という用途が理にかなっていました」とオブライエン氏は話した。(参考記事:「「謎の恐竜」の正体を突き止めた男」

 では、ルシンゴリクスは一体どんな声で鳴いていたのだろう。オブライエン氏は、「鼻の内部の形から、声の周波数を250~750ヘルツと算出しました。かなり低いだけでなく、ブブゼラの可聴周波数とも重なります」と語る。つまり、ルシンゴリクスの群れが出す鳴き声は、満員の観衆で埋まったFIFAワールドカップ南アフリカ大会のスタジアムさながらだったかもしれないのだ。実際には軟部組織があるので、人間には聞こえないような非常に低い音も出せたかもしれない。オブライエン氏は、「ルシンゴリクスはトランペットの低音に似た鳴き声だったはずですが、仲間にしか聞こえない声で鳴けた可能性も十分あります」とみる。

 エバンス氏は、このドーム状突起は視覚的な誇示や互いの認識にも使われたのではと指摘する一方、「ルシンゴリクスが持つ鼻のドームは、発声が主要な機能だったという説は格段に説得力があります」として、今回の研究結果に同意する。加えて、奇妙な形の頭骨が戦闘や誇示目的によってのみ発達するのではないことも示すと指摘した。

「喉の軟部組織が手に入らない以上、ルシンゴリクスの正確な鳴き声は永遠に謎です」とオブライエン氏。それでも、このトランペットのような鳴き声を上げる動物が人類と同時期に繁栄し、そして死に絶えたことは明らかだという。大きな鼻を持った哺乳類の群れから聞こえたであろう音を、オブライエン氏は「更新世の不協和音」と呼んでいる。(参考記事:「巨獣はなぜ消えた?」

【フォトギャラリー】奇妙な恐竜たち

文=Brian Switek/訳=高野夏美

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