動物600頭の狩猟権オークション始まる

趣味の狩猟は「血のスポーツ」か「動物保全に貢献」か

2016.02.05
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エレベーター内部を埋め尽くすライオンのはく製。2015年のダラス・サファリ・クラブ会合へ運び込まれたもの。(PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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 世界最大のトロフィーハンティング(趣味の狩猟)団体が、ライオンやクマ、キツネなど数多くの動物を狩猟する権利を、今年もオークションにかけている。

「アルティメート・ハンターズ・マーケット」は、サファリ・クラブ・インターナショナル(SCI)が年に1回開催するイベントで、アフリカとヨーロッパ、オセアニア、アメリカ大陸の32カ国で少なくとも600頭の動物を狩猟する権利がオークションにかけられる。

 米国ラスベガスで5日間開催されるオークションとイベントには、約2万人の入場者と、さらにオンラインでも多くの入札を見込んでおり、数百万ドルの収益を期待している。昨年は、317件の狩猟権が落札され、クラブは270万ドルを売り上げた。

 トロフィーハンティングに対する批判はかつてないほど高まっているものの、1月にはテキサス州でダラス・サファリ・クラブ(DSC)が同様のイベントを開催、過去最高の5万1000人の入場者を記録した。

セシル殺害で高まる狩猟批判

 昨年の夏にジンバブエで保護下にあったライオンの「セシル」が射殺された事件は記憶に新しい。撃ったのは、SCIの会員だった米ミネソタ州の歯科医ウォルター・パーマー氏だった。SCIはこの事件の後、パーマー氏の会員権を一時的にはく奪した。パーマー氏の代理人によると、同氏はセシルの件に関してアフリカのガイドから正式な許可証を購入し、合法的な狩猟だと信じていたという(ジンバブエ政府はこれに反論し、地元ガイドを密猟の罪で起訴した)。(参考記事:「殺されたライオン「セシル」が愛された理由」

 セシルの死後、ネットでは批判が噴出し、パーマー氏の診療所の前には抗議デモを行う人々が押し寄せた。世間に怒りの声が広がる原動力となったのは、ソーシャルメディアである。セシル射殺のニュースを拡散させただけでなく、以前は狩猟コミュニティの中だけで共有されていた他の狩猟写真も、ソーシャルメディアのおかげで誰でも簡単に閲覧することができるようになった。(参考記事:「ライオン殺しの米国人、今後どうなる?」

【フォトギャラリー】追悼:セシル・ザ・ライオン写真集

「この手のオークションはもう何年も前から開催されてきましたが、世間の人々はほとんどその存在を知りませんでした。セシルのことがあって、トロフィーハンティングは一気に注目を集めたのです」と、米ワシントンDCにある動物愛護協会の政策スペシャリスト、マーシャ・カリニーナ氏は言う。「得意げに笑うハンターと、血を流して倒れているサイが並んだ写真は、多くの人にとって気分のいいものではありません。今では、このような写真がフェイスブックやインスタグラムに数多く投稿され、人々の怒りに油を注いでいます」

 怒りが頂点に達した結果、狩猟関係者が脅迫電話を受け、FBIが捜査に乗り出すケースもあった。一方で、オークション反対派の声が届いていることを示すのが、今年のオークションにサイの狩猟権が出品されていない点だ。サイの狩猟は過去に最も激しい批判を買っていた。現在、多くの企業がトロフィーハンティングから距離を置こうとしており、一部の航空会社は動物の体の輸送を禁止する措置をとっている。(参考記事:「クロサイの狩猟権競売に脅迫状」

「狩猟は保全に必要不可欠」

 トロフィーハンティングの支持者は、これが野生動物の保全活動にとって貴重な資金源となっていると主張する。それだけではない。経済的にひっ迫する地域に収入をもたらすほか、若い動物の繁殖行動を妨げるような高齢の動物や問題のある動物を狩猟によって減らすことができると主張している。

 SCI基金の保全担当責任者メリッサ・シンプソン氏は、2013年にナショナル ジオグラフィックのウェブサイトに意見記事を寄稿し、「米国で一定の管理のもとに狩猟が認められているのと同様に、アフリカでも管理された狩猟は保全活動に重要な貢献をしている。特に狩猟で訪れる旅行客は、地域社会や野生生物保護団体へ貴重な収入をもたらしている」と書いた。

 昨年、DSCが保全活動の資金集めを目的にクロサイの狩猟権をオークションにかけた際、クラブは「現代の野生生物保護管理において、持続可能な狩猟は必要不可欠な手段であり、それを社会一般に受け入れてもらうために、合法で倫理的かつ慎重に行動する狩猟家は重要な役割を担っている」と説明した。

 DSC代表のベン・カーター氏もナショナル ジオグラフィックに対し、きちんと管理されたトロフィーハンティングは、健康で強い個体群を保つために野生生物管理当局が使う手段であると語る。「非生産的な個体を群れから取り除けば、群れはむしろ繁栄するものです」(参考記事:「ゾウを殺してゾウを保護するという矛盾」

クラブ会員数は増えている

 しかしカリニーナ氏は、トロフィーハンティングは持続可能ではなく、そこから得られた収入も多くが汚職に消えたり、道路建設など動物保護とは相反するプロジェクトに使われるなどし、実際にどれだけ保全活動に役立てられているかは不透明であると指摘する。動物愛護協会はトロフィーハンティングを「血のスポーツ」と称し、これを促進するようなイベントの開催を受けないようラスベガス側に求めている。

 過去には、保全を目的とした狩猟は世界自然保護基金(WWF)などの団体の支持を受けていたが、最近では支持者の数は減少している。

 SCIのオークションは、1年のうち最も多くの資金を集められるイベントで、クラブの年間収入の62%を占めている(サファリ・クラブへインタビューを申し入れたが、現時点で回答はない)。SCIは保全団体を自称するが、様々な環境問題に関して他の保護団体とは相容れない場合も多い。例えば、狩猟が認められる土地の拡大を求めたり、スポーツ狩猟で仕留めたゾウの輸入を禁止する法律に反対するロビー活動を行うなどしている。

 こうして動物保護への支持が高まり、トロフィーハンティングに対する批判が拡大しているのと対照的に、狩猟家の多くはスポーツ狩猟をやめる気はないようだ。高まる批判で名が売れたことも手伝ってか、DSCの会員数は急増しており、米国の他地域でも支部の開設を計画している。一方、南アフリカのプロフェッショナル・ハンターズ・アソシエーションの会長は、セシルの死を受けて、私有地でのライオン狩りに対する立場を見直すよう会員へ呼びかけた。(参考記事:「なぜライオンは今も狩猟の対象なのか?」

文=Brian Clark Howard/訳=ルーバー荒井ハンナ

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