トラ寺院、147頭のこれから

特報:タイガー・テンプル闇取引レポート(その3)

2016.02.12
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タイのタイガー・テンプルで、コンクリートの囲いに閉じ込められて暮らすトラたち。(Photograph by Sharon Guynup)
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 2014年12月に成長した3頭の雄トラ、ダオヌア、ハッピー、ファークラムが失踪した事件に話を戻そう。

 オーストラリアの環境保護NPO「Cee4life」が入手した2014年12月20日の寺院の防犯カメラの映像には、夕暮れ時に敷地内に入ってくるセダン車とトラックが映っている。車はトラたちが収容されているタイガーアイランドで停車。懐中電灯を手にした人々が動き回っている。そしてほぼ2時間後、車は寺を離れた。

ホワイトタイガーと交換?

 長年ここで働いているアンディ・サンボー氏によると、このときはクリスマスが近い時期だったため、寺院にいる外国人スタッフやボランティアは、近隣のカンチャナブリーの街へ飲みに出かけていたという。寺院の規則では、午後6時の瞑想の時間までに寺に戻らなかった者は、翌朝まで外で過ごさなければならないことになっているため、彼らは全員、その夜は街に宿泊した。これは普段はあまりないことだ。

 12月21日、見回りをしていた職員が、ダオヌアのケージが空っぽなことに気が付いた。ケージの床や外の地面には、引っかいた跡があった。トラが必死に抵抗した証拠に、あたりには暴れている最中に剥がれ落ちた爪が散らばっていた。

 12月25日の夕暮れ前――この夜もまた、外国人職員は街に出ていた――、寺院の防犯カメラは、バイクでやってきたふたりの男をとらえた。午後9時22分、そのうちのひとりが、以前と同じ2台の車を敷地内に招き入れる。このときは、車は2度出入りを繰り返した。男たちは深夜には去っていった。

 翌朝、ハッピーとファークラムの姿が消えていた。

 その日、職員のひとりが個人のフェイスブックのチャットで、元ボランティアスタッフに向けてこんなメッセージを送った。「今日、トラが3頭いなくなったよ……彼らは3頭のトラを白いトラと交換したけれど、それはまだここに来ていないと言っていた。瞑想の時間には、ある僧侶が職員に向かって、こんなのたいした問題じゃないし、トラは大丈夫だから黙ってろとまで言ったんだ」

 トラたちを寺院から取り上げて移動させるにあたっては、事を慎重に運ぶ必要があった。寺院の入り口とトラのケージの間には、鍵の掛かった門が6つある。院長の右腕のカセム・ポールチァイという名の僧侶が鍵を持っていた。

 12月末、フォックスクロフト氏が「チャーリー(仮名)」と呼んでいる人物が、カセム氏にインタビューを行い、その様子をビデオに収めた。チャーリー氏は、この寺院のアドバイザーという高い地位にある人物だが、カンチャナブリー警察に「トラ泥棒」についての情報を提供して以来、殺害の脅迫を受けていた。(参考記事:特集「密猟象牙の闇ルートを追う」

ずさんな計画

 カナダ人のゲーリー・アグニュー氏は、カルガリー動物園の役員を務めている人物で、保護下にあるトラの世話にも詳しい。彼は10年前から毎年タイガー・テンプルを訪れ、長期間滞在してきた。彼は僧侶たちに動物の福祉についてのアドバイスも行う、いわば内部の人間だ。

 アグニュー氏は私に、いなくなったトラについては彼も独自に調査を行っており、すでにカンチャナブリー警察に情報を提供したと語った。「3頭のトラはいわば“密猟”されたのです。職員が関与している内部の犯行です。この件が明るみに出たのは、計画があまりにずさんだったからです」。彼によると、犯行に関わった職員がうっかり別のトラ――マイクロチップのついた、登録済みで追跡可能なトラ――を運び出してしまったのだという。

 3頭のトラは、おそらく死んでいるだろうと彼は言う。その意見は、チャーリーの音声テープの内容とも一致する。その中で院長はこう言っている。「そうだ、そうだ。それが我々のやり方だ。さもなければ彼らは生きたトラを持ち出さなければならなくなる」

 私たちはチャーリーと人目につかない場所で会い、ウィンター氏は個人を特定されることを避けるため、彼の姿がシルエットになるように撮影した。チャーリーは、タイの法律では、警察で捜査が進行中の案件について話すことは禁じられていると話した。また彼は、地元の警察を完全には信用できないことから、ビデオの一部を提出せずに、国立公園局とフォックスクロフト氏、そして私たちに渡したのだという。

 獣医のスムチィア氏が、トラたちのマイクロチップを証拠として警察に提出してから11カ月がたつが、この件についてはまだ起訴は行われていない。「私がもっとも危惧しているのは、この件がうやむやにされてしまうことです」とアグニュー氏は言う。

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