【解説】猛威振るうジカ熱、いま注意すべきこと

南北アメリカを席巻、ヒトスジシマカも媒介か

2016.02.02
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ブラジル、レシフェ。蚊を殺す殺虫剤を噴霧する市の職員を少年たちが避ける。蚊はジカウイルスを媒介している可能性がある。(PHOTOGRAPH BY FELIPE DANA, ASSOCIATED PRESS)
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 現代の世界には時折、恐ろしいウイルスが突如現れる。多くの場合、要因は複雑で、流行の下地は数年から数十年かけてひっそりと作られている。

 「ジカ熱」もその例外ではない。最近まで多くの人が知らずにいたこのウイルスについて、米国疾病予防管理センター(CDC)と世界保健機関(WHO)がにわかに不吉な警告を出す事態となっている。

 1月27日、WHOはジカウイルスが「爆発的に広がっている」と発表した。警告が出たのは、ブラジルで急増する先天性の欠損が、妊娠中の母親のジカウイルス感染に関連する可能性があるためだ。この騒ぎの中、推測と事実を区別すること、そしてジカ熱をより広い視野でとらえることには意味があるはずだ。(参考記事:「ウイルス性の「新興感染症」の研究」

発見は70年前のアフリカ東部

 ジカウイルスは1947年、アフリカ東部のウガンダで初めて分離された。ビクトリア湖の西岸に近い小さな植物群落「ジカの森」で、ロックフェラー財団の科学者たちが黄熱病の研究をしていたときのことだ。

 分かっている限りアフリカ初のジカウイルス感染者は、皮肉にもアジアから持ち込まれたアカゲザルだった。黄熱ウイルスを運ぶ蚊に吸血させるため、樹上に設置されたおりに入れられていたのだ。

 アカゲザルの血液から出たのは黄熱ウイルスではなく、未知の病原体だった。「ジカ」と名付けられたこのウイルスは従来知られていなかったが、アフリカのサルや他の動物を宿主として、数千年単位で長く潜伏していたのだろう。その後、ジカウイルスは同じ森に生息するヤブカ属の蚊から再び見つかり、これらの蚊が媒介になってウイルスを広げていると特定された。

 そしてついに、人間の間でもジカウイルスへの感染が確認された。セネガルからカンボジアまで、感染者はアフリカにとどまらずアジアにも広がり、ヤブカが分布する広い範囲で感染者が出た。

 頭痛、発熱、発疹、目の充血といった症状は、たいていは軽症で済んだ。だが2013年に起こったフランス領ポリネシアでの流行の際には、40人が危険な自己免疫疾患であるギラン・バレー症候群を患った。これが、ジカウイルスが重症化しうることを示した最初の例だった。

2015年、ブラジルで小頭症の新生児

 次に大きな流行が始まったのは2015年4月。ブラジル北東部で、多数の患者がジカウイルスに感染していると診断された。ウイルスが南米本土で確認されるのは初めてであり、膨大な人口が感染する可能性が出てきた。

 10月にはさらに悪いニュースが入ってきた。頭が生まれつき小さく、脳の発達不全につながる小頭症の新生児が、ブラジル北東部で急増したのだ。小頭症児の母親のうち、少なくとも2人の羊水からジカウイルス感染の証拠が見つかり、ジカ熱と小頭症との関連が示唆された。しかし、確定ではない。

ブラジル、ポッソ・フンドで、小頭症の息子の体を洗う母親。小頭症の原因としてジカウイルスが疑われている。(PHOTOGRAPH BY FELIPE DANA, ASSOCIATED PRESS)
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 ジカウイルスはどんなルートでブラジルに入ったのだろうか? 2014年8月には、アウトリガーカヌーの世界大会「ヴァア・ワールド・スプリント・チャンピオンシップ」がリオデジャネイロで開催された。もしかしたら、フランス領ポリネシアか他の太平洋の島々の選手の血中にウイルスがいたのかもしれない。

 ウイルスを人から人へ広げるには媒介者がいなくてはならない。有力視されているのが、一般に黄熱病蚊と呼ばれるネッタイシマカ(Aedes aegypti)だ。アフリカの蚊だが、奴隷貿易の時代に船に乗って南北アメリカに渡ったと考えられている。もう1つが、英語でアジアン・タイガー・モスキートと呼ばれるヒトスジシマカ(Aedes albopictus)だ。米国にやって来たのは比較的最近で、分布域は中南米のみならず米国南部にまで達している。

いま、注意すべきこと

 いま、注意すべきことは何だろうか。全ての妊婦と、今後妊娠の可能性がある女性は最も警戒が必要だ。もちろんブラジルに限らず、ヤブカがいる温暖な地域ならどこでも感染の可能性がある。WHOは、ジカ熱はカナダとチリを除く南北アメリカ全域に広がるだろうと注意を促している。

 現在、コロンビア、ベネズエラ、エルサルバドル、メキシコなど中南米諸国でもすでにジカ熱患者が発生している。このうち、エルサルバドル、ジャマイカ、コロンビアなどでは、しばらく妊娠を避けるよう女性たちに指導を始めた。

 旅行者の体内に入ったジカウイルスは、米ミネソタ、ニューヨーク、ハワイといった州に持ち帰られ、ハワイでは小頭症児が1例確認された。

 ヒトスジシマカはヨーロッパ南部にも広く分布するし、ヒトスジシマカもネッタイシマカもアジアのたいていの都市に生息する。ある推定では、地球上の人類の半分以上はヤブカの分布域に住んでいるという。公衆衛生当局は、これらの蚊が成虫へと育つ産卵場所を減らすよう目を配る必要があるだろう。人家の近くにあるたまり水などがそうだ。また、社会の現実にもきめ細かく対応しなければならない。貧しく立場の弱い、避妊法を利用できない女性に「妊娠するな」と言うだけでは不十分だ。

人々の営みの帰結

 重要なのは、これがごくまれな、一回限りの大きな不運などではないということだ。人々がいきり立って、政府の対応のまずさを責めればいいというものではない。

 むしろこうした感染症は、人や物が短時間で世界を移動し、地球上の人口が70億人を超えてもなお増え続けているという、現代社会における日々の営みの結果だ。つまり私たちは、ウイルスにとってまたとない宿主になっているのである。(参考記事:「人と動物を襲う感染症」

 そして、こうした事例はいつものパターンとして何度も繰り返されている。2012年、サウジアラビアで発生したMERSコロナウイルスに多くの人が不安を募らせた。2014年にはエボラが取って代わった。より大きな宿主を求めて、ウイルスが西アフリカで爆発的に広まったのだ。来年にはウイルスX、再来年にはウイルスYが来るのだろう。今年はジカ熱だということだ。(参考記事:「エボラ被害国の実情ルポ(第1回)」特集「エボラはどこに潜むのか」

文=David Quammen/訳=高野夏美

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