2015年12月、米国カリフォルニアの生物学者たちに思わぬクリスマスプレゼントが届いた。生後間もないピューマの赤ちゃんが2頭、幼少期特有の青い目を見開いて、巣穴から顔を出していたのだ。
研究チームは、サンタモニカマウンテンズにすむメスのピューマ「P-19」の監視中にたまたま赤ちゃんを発見。2頭の写真を、このほど米国国立公園局が公開した。2002年以来、研究者たちはGPS首輪などの追跡機器を使い、ロサンゼルス郊外に生息する大型ネコ科動物の習性や移動の様子を研究している。(参考記事:「大型ネコ科の特集7本まとめ」)
どんなときも赤ちゃんの誕生は朗報だが、「父親がどのオスか分かれば、2頭の誕生は特に大きな意味を持つかもしれません」と、サンタモニカマウンテンズ国立保養地の生物学者ジェフ・シキッチ氏は話す。
P-19は過去2回出産しているが、相手はいずれも父親のP-12であり、シキッチ氏によれば「親子間という最も近い近親交配」だった。この一帯の、ただでさえ小規模なピューマ個体群で遺伝的多様性が低下し、やがては将来の生存も難しくなるおそれがあった。
だがシキッチ氏は、先月確認されたメスとオスの子どもたち(それぞれP-46、P-47と命名された)が別のオスを父に持つなら、新たな遺伝子が流れ込んだことになると期待もしている。2頭の父は、この生息域に最近現れたP-45という可能性もある。(参考記事:「復活するピューマ」)
「この地域のピューマは、米国西海岸で研究対象となっている個体群の中でも遺伝的多様性が最低レベルなのです。最も危険なのはフロリダパンサーですが」と、シキッチ氏は言う。(参考記事:「生存数わずかなフロリダパンサー」)
「島のような生息地」
シキッチ氏は2頭の父親について、「幼獣の血液検査をすれば、今後数週間以内には判明するでしょう」と話す。
だが、より強い遺伝子を持っていたとしても、2頭の前には多くの困難が立ちはだかるだろう。
まず問題になるのは、サンタモニカマウンテンズ国立保養地の狭さだ。ピューマは縄張りが広く、約650平方キロという保護区画に常時暮らせるのは最大でも15頭。そのうち、オスの成獣は1~2頭が限界だ。
「ここはまるで島のような生息地だと、よく思います」とシキッチ氏は言う。(参考記事:「ロサンゼルスの住宅地にクーガーが出没」)
縄張り、餌、交尾の権利をめぐる争いも待ち構えている。特に、幼いオスには危険が多い。
「ピューマ同士の殺し合いになるのは避けられません」とシキッチ氏は話す。「山の中で幼いオスが成獣のオスと出くわせば、殺されてしまいます」
昨年10月には、研究用の首輪を着けたオスがよその巣穴に入り、別のオスの子を食べてしまうということもあった。
最大の脅威は自動車
この保養地は西を農場と住宅団地、南を太平洋、北と東を高速道路に囲まれている。
道路を横断しようとして車にはねられるのは、ロサンゼルス近郊のピューマにとって最大の脅威の1つだ。ある程度育って母親の元を離れると、その危険は増す。
P-32はまさにそのパターンだった。生後21カ月のオスで、分かっている限り、サンタモニカマウンテンズを離れた最初のピューマだった。P-32は、北上しながら大きな高速道路4本を横切るという離れ業を見せたが、カリフォルニア州キャスティーク付近の州間幹線道路でトラックにはねられて死んだ。
「この辺りのような都市に近い環境でも、ピューマが生きていくことは可能です」とシキッチ氏。「が、それは生息域の大きなブロック間で行き来が可能ならの話です」
「私たちは自然が残っている地域を保護すると同時に、それらの生息域間をつなぐ通路を確保する必要があるのです」(参考記事:「フロリダ半島に野生生物回廊の計画」)
母親は優秀
幼いP-46とP-47にとって朗報なのは、彼らの母が優秀な親だとすでに証明されていることだ。
P-19が過去に産んだ子どものうち、何頭かは今も生きており、シキッチ氏らの研究チームがこまめに追跡を続けている。中には、親になった者たちもいる。高速道路ではねられたP-32も、P-19の息子だった。
加えて、赤ちゃんの誕生はこの地域の他のピューマの将来にとっても喜ばしいニュースだ。
「良い兆しなのは間違いありません」とシキッチ氏は言う。「サンタモニカマウンテンズのメスたちが、依然として繁殖を続けているということですから」