ホンジュラス東部モスキティア地方の古代都市遺跡で、米国の考古学者クリストファー・フィッシャー氏(右)と意見交換するホンジュラスのフアン・オルランド・エルナンデス大統領(白いシャツ)。(Photograph by Dave Yoder, National Geographic)
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 中米ホンジュラス東部、モスキティア地方の密林で昨年見つかった謎の古代都市の発掘が、1月12日、フアン・オルランド・エルナンデス大統領の肝いりで始まり、大統領自ら遺物第1号を掘り出した。遺物は手つかずの状態でホンジュラス軍に保護されていた。再び現地入りしたホンジュラスと米国の合同調査団が現在、遺物の発掘とともに、さらなる遺跡の探査を行っている。

 エルナンデス大統領が発掘したのは、玄武岩でできた見事な器だ。器の縁には、2種類の動物の姿が彫られており、一つはこの地域に多いコンドルの頭部とみられる。この器は昨年2月に発見され、掘り出さずに保護していた52点の遺物の一つで、およそ500年から800年前の古代都市の中心部に立つ土造りのピラミッド付近に埋もれていた。それ以来、誰かが触れた形跡はなさそうだ。(参考記事:「謎の古代文明の遺跡を中米で複数発見、マヤとは別」

 現地入りした米コロラド州立大学の考古学者クリストファー・フィッシャー氏が率いる調査団は、数日間の発掘調査で新たに12点の遺物を発見し、出土品は全部で64点になった。その大半は、石の器や、玉座とみられる台座石「メタテ」だ。考古学者たちによれば、出土したメタテの一つに施された連続模様は、夜空を抽象的に描いたマヤの「天空の帯」に似ている。まだ名前もついていないモスキティアの文明と、隣接するマヤの強大な文明とのつながりを解明する手がかりになりそうだ。

「遺物はもっと出てくるはずです」とフィッシャー氏は言う。「おそらく王族の墓も埋まっているでしょう」

 エルナンデス大統領は、ジャガーと人間の顔を併せもった石像も掘り出した。この石像は、トランス状態になったシャーマン(霊媒師)を表していると考えられ、メタテの前部に当たることが今回の発掘で判明した。このメタテは2本の脚をもち、太くて短い尻尾をもった動物がしゃがんだ姿をしている。この遺物の発見を受けて、遺跡のある谷に新しい名前がついた。これまでは「T1」と呼ばれていたが、今は「ジャガーの谷」と呼ばれている。(参考記事:「謎の古代文明の遺跡、ホンジュラス政府が保護へ」

「ジャガーの谷」で石の器を発掘する、米ワシントン大学の大学院生アナ・コーエン氏。(Photograph by Dave Yoder, National Geographic)
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 昨年3月、遺跡発見が報道された際、一部の考古学者たちから、報道は「大げさすぎる」と批判の声が上がった。この地域では、以前から考古学調査が行われ、地元の先住民の間でも遺跡のことは知られていた、というのだ。それに対して調査団は、2012年の上空からの調査に続き、2月の地上調査で確認された現場は、これまでどの学術論文も取り上げていないし、ホンジュラス国立人類学歴史学研究所(IHAH)の考古学資料室にあるどの報告書や文献にも言及がないと反論した。

 エルナンデス大統領は以前、モスキティアの密林にあるとされる伝説の失われた都市「シウダード・ブランカ」(白い都市)についての噂を聞いたことがあったので、上空からの調査で「失われた都市」が一つではなく、二つあることがわかったとき、心が踊ったと語っている。(参考記事:「21世紀中に解明されそうな古代ミステリー7つ」

「これは、考古学的にも歴史的にも大発見です」と大統領は話す。「この文明には興味が尽きませんが、解明すべきことがまだたくさんありますし、それにはかなりの時間がかかります。私たちは、そうした情報を喜んで世界に発信していきます」

 上空からの調査で見つかった二つ目の都市「T3」は、ジャガーの谷よりもはるかに規模が大きいが、まだ調査は始まっていない。1月18日、クリストファー・フィッシャー氏とナショナル ジオグラフィックの写真家がホンジュラス軍のヘリコプターで現地に入り、短時間の調査を行う予定になっている。

【2016年1月号特集】中米ホンジュラス 密林に眠る伝説の都市

文=Douglas Preston/訳=倉田真木