推進剤は火星で製造、最新版「火星の帰り方」

無事、地球に帰るまでが火星探査。だが、薄い大気がNASAを悩ませる

2015.10.08
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火星の厳しい環境に耐える

 火星への旅が成功したなら、次はその環境に耐え抜く必要がある。

 火星で推進剤を作ることで、NASAは初期ペイロード重量を何トンも削減できる。さらに、ミッション終了後、装置を火星に残しておけば、将来の探査活動時に推進剤だけでなく水や空気を製造する施設を作るインフラとして再利用できる。

 MAVのエンジンの推進剤は、燃料であるメタンと酸化剤の液体酸素だ。これを作るために必要な全ての原料―炭素、水素、酸素―は、場所さえわかっていれば、火星で見つけられる。

 理論上、95%が二酸化炭素(CO2)である火星の大気からでも、酸素を得るのは可能だ。また、地中に埋まる液体の水および氷(H2O)からも酸素を得られる。残った炭素と水素を使えば、メタンも作れる。

初期ペイロード重量を削減するため、MAVは火星到着後に、火星大気(95%を二酸化炭素が占める)から液体酸素を製造する。
MATTHEW TWOMBLY, CHIQUI ESTEBAN, NG STAFF SOURCES: Bong Wie/Iowa State University, Ames; Space.com

 しかし、水の掘削は、ただでさえ難しいミッションに不確定要素を増やすだけである。掘削して処理する工程は、単純に大気から抽出するのに比べるとかなり複雑だ。「地下水から推進剤を生産するには、もう1つ問題があります。それは、水が確実にある場所に着陸しなければならないこと」だとラッカー氏。掘らなければならないのに、「着陸した場所が岩盤の上だったら、すべてがムダになってしまいます」

 火星の水から水素を得られないのなら、プランBとしては、地球から水素を運び、メタンの原料とする方法がある。しかし、初回ミッションでは、これも現実的な選択肢ではない。水素は重くないが、非常に大きなタンクが必要であり、貴重なスペースを消費してしまう。

「着陸機の上部は設計上、平らなデッキとなっていて、現在、デッキスペースの大半を占めています。そのため、水素タンクを置く余地はありません」と、NASAマーシャル宇宙飛行センターの航空宇宙エンジニア、タラ・ポルスグローブ氏は言う。

 MAVの幅を狭めて背を高くすることで、水素タンクの場所を確保する方法もある。しかし、高くするのはできるだけ避けたほうがいい。なぜなら、あまり高くしすぎると、着陸後に転倒する恐れがある。

 さらに、MAVの背が高いと、宇宙飛行士の身体的な負担になるとラッカー氏。ミッション中に飛行士が動けなくなったりした場合、とてもではないが、高いはしごを登れない。乗り込みやすさはMAVに欠かせない条件だ。

 以上のような理由から、現在のプランでは、MAVには液体メタンを積載したうえで、火星大気から液体酸素を作る化学プラントを装備して、火星に送ることが想定されている。

 このプロセスには、1年から2年の時間が必要だ。そして、MAVの液体酸素タンクが満タンになったとき、火星に人が送られる。

火星上昇機およびその着陸機が火星大気圏に入ると、膨張式のシールドが展開される。(ILLUSTRATION COURTESY NASA)
火星上昇機およびその着陸機が火星大気圏に入ると、膨張式のシールドが展開される。(ILLUSTRATION COURTESY NASA)
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 しかし、それだけではミッションは完了しない。ラッカー氏によると、「推進剤の低温貯蔵が課題の1つです。火星で推進剤を作ったら、実際に使用するまでの約2年間、沸騰させないように冷却状態を保つ必要があります」

「推進剤が手に入っても、現時点では漏れのないバルブがないことも考慮しなければなりません。ですから、漏れの少ないバルブの開発についても優先して進めなければならないのです」と、ポルスグローブ氏。

 さらに大きな懸案事項が、時間だ。MAVは、推進剤を作るのに1、2年を必要とする。その後、クルーが200から350日かけて火星に向かう。クルーの到着後、最長500日にも及ぶ火星探査が行われる。

 つまり、MAVは最初の火星着陸から4年程度、いつでも離陸できる状態を保たなければならない。「MAVは、火星環境に放置されています。塵や、強力な紫外線放射にさらされているのです。たとえば4年間、あなたの庭に家具を放置するとどうなりますか? それですら地球の場合であり、火星よりもずっと守られているはずです」とラッカー氏は言う。

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