推進剤は火星で製造、最新版「火星の帰り方」

無事、地球に帰るまでが火星探査。だが、薄い大気がNASAを悩ませる

2015.10.08
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飛行士の服装は

 MAV設計時に考慮すべき重要な課題の1つが、宇宙飛行士の服装だ。

「宇宙ステーションの映像を見たことがあるでしょう。彼らは、短パンTシャツという服装でうろうろしています。大きな宇宙船での安定したフライト中は、それで大丈夫です。しかし、上昇機の中では移動する余地はありませんし、機体に穴が開くことを想定して、宇宙服を着る必要があります」とラッカー氏。(参考記事:「バイオスーツ、NASA宇宙服の歴史」

 では、どんな宇宙服を着るべきなのか。火星表面を探査する際に宇宙飛行士が着るもの――船外活動スーツ――は、重くてかさばる。MAV内でそれを着るなら、キャビンを広くしなければならないだろう。

火星表面で宇宙飛行士が着ることになる宇宙服は、軌道への移動時には大きすぎる。その代わり、「船内活動」スーツを着用する。(PHOTOGRAPH BY ROBERT MARKOWITZ, NASA/JOHNSON SPACE CENTER)
火星表面で宇宙飛行士が着ることになる宇宙服は、軌道への移動時には大きすぎる。その代わり、「船内活動」スーツを着用する。(PHOTOGRAPH BY ROBERT MARKOWITZ, NASA/JOHNSON SPACE CENTER)
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 スーツに付着した火星の塵も課題だ。適切な惑星保護プロトコルの策定もなしに、それを地球に持ち帰ってはならないことになっている。

 ラッカー氏は、かさばるスーツは火星に置いて帰り、将来のミッションで回収するのがベストだと考えている。その代わり、火星を発つ飛行士は、「船内活動」(IVA)スーツを着ることになる。これは、スペースシャトルのクルーが打ち上げ時や再突入時に着る、オレンジ色のふわふわの服である。

 IVAスーツは、船外活動スーツに比べて軽く、若干フレキシブルにできている。また、火星の「屋外」にさらさないように保管しておけば、塵も付着しない。飛行士は、ドッキングポートを経由して居住環境から探査車に移動する。MAVに戻るときには、きれいなIVAスーツに探査車の中で着替えてから、専用設計の加圧トンネルを経由してMAVに乗り移る。

宇宙飛行士は、加圧されたローバー内で、火星の塵が付着していない宇宙服に着替える(地球に汚染物質を持ち込まないための安全策)。その後、トンネルを通ってMAVに乗り込む。 MATTHEW TWOMBLY, CHIQUI ESTEBAN, NG STAFF SOURCES: Bong Wie/Iowa State University, Ames; Space.com

 1度しか使わないトンネルを火星に持っていくと、重量が増えてしまう。しかしラッカー氏は、トンネルは複数回使う可能性があると考えている。

「(トンネルは)あると便利だと思います。たとえば、大きな居住環境を1つ持つよりも、小さな居住環境が2つあって、それらをトンネルで連結することもできるでしょう。新しい要素を増やすのはいいことではありませんが、その要素がいくつもの課題を解決してくれるなら、それはメリットとなります」

地球への帰還

 ついに、地球に帰るときがやってきた。

 MAVの内装の重量は、徹底的に抑えられなければならない。MAVは片道宇宙タクシーであって、居住空間ではない。実際、座席すら用意されない可能性がある。その場合、宇宙飛行士らは、輸送中ずっと立っていることになる。

 ロケットによる上昇は7分間。しかし、それで終わりではない。飛行士らは、燃料をさらに使って、地球帰還機(ERV)とランデブーおよびドッキングする軌道まで移動しなければならない。

 ERVが1火星日の軌道(火星の高度250kmから33800kmを回る楕円軌道)にパーキングしているとすると、上昇機の搭乗時間は最長で43時間にも及ぶ可能性がある。しかし、ラッカー氏によると、この問題は火星ミッション計画者の間でも未解決のままだ。

クルーは火星表面から打ち上げられ、火星上空のパーキング軌道で待つ地球帰還機とのランデブー飛行を行うまで、最長で43時間MAVに搭乗する。
MATTHEW TWOMBLY, CHIQUI ESTEBAN, NG STAFF SOURCES: Bong Wie/Iowa State University, Ames; Space.com

「電気推進システムの技術者は、軌道上に浮かぶ巨大な居住空間をできるだけ高い位置に保ちたいと考えています。彼らは、5から10火星日の位置を保ちたい。そして、上昇機にそこまで来てほしいと思っているのです」

 しかし、MAVの搭乗時間が長くなると、必要な施設が増えることになる。

「43時間であれば、宇宙服を着たままの状態で、温かいスープがなくても耐えられるでしょう。それが3日や5日、あるいは7日にまで延びたらどうでしょう。いろいろな物が必要になり、上昇機のサイズがどんどん大きくなるだけです」(参考記事:「擬似火星から帰還、Mars500完了」

 ドッキングが完了し、クルーや積荷を帰還機に移動したら、MAVは切り離され、未来の火星ミッションと干渉しない軌道に移動し、最後の廃棄作業を終える。人類史における重要な役割を果たした小型宇宙船はこうしてむなしい最期を迎えるのである。

人類の火星への旅は、もはや夢物語ではない――。
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文=Mark Strauss/訳=堀込泰三

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