ゾウを殺してゾウを保護するという矛盾

ハンティングの収益でゾウを保護するという世界銀行の決定が議論に

2015.07.13
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利用するか、失うか

 世界銀行のもと、ゾウを対象とした1回1万1000ドルのハンティング許可が年間80件、ライオン1回4000ドルの許可が55~60件発行されている。収益の大半はモザンビーク政府に入るが、20%は保護地区近隣に住むコミュニティに再分配されることになっている。

 ケニアの動物学者フィリス・リー氏は、「(世界銀行は)野生動物の消費的利用に対して、功利主義的な視点に突き動かされている」と述べる。

 野生動物の消費的利用、あるいは持続的利用というアイデアは生物多様性条約に書かれているもので、人間が動物から利益を得る際、その生息地や個体数をむしばむことのないように行うべきだという意味が込められている。

 しかし、リー氏は言う。「一部で持続的利用の本来の意味が奪われ、ハンティングがそれを代表するかのようになっています」

 さらにリー氏は、国際自然保護連合(IUCN)にダラスサファリクラブが加盟したことを批判している。同クラブは、ナミビアで絶滅の危機に瀕しているクロサイのハンティング許可をオークションにかけているスポーツハンティングクラブだ。「ハンティングをさも保護のためであるかのように語らせる、考えうるかぎりで最悪の方法です」(参考記事:「史上最大、サイ100頭の空輸計画」

2014年1月28日、モザンビークから中国へ3.4kgの未加工象牙を密輸しようとしていた中国籍のTang Yong Jianがナイロビ空港で逮捕された。有罪が確定し、22万3000ドルの罰金または7年の懲役刑となる。モザンビークにおけるゾウの激減は、中国の密売人が主な原因であると考えられている。(PHOTOGRAPH BY THOMAS MUKOYA, REUTERS/CORBIS)
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「それが種の保存のためにならないことは明らか。動物殺しで収入を得ているだけです」

 ダラスサファリクラブのベン・カーター事務局長は、「このハンティングには生物学的理由があります。“個体ではなく、個体数が重要である”という現代の野生生物管理の基本的前提に基づいているのです」と主張している。

収益に対する疑念

 先ごろ国連世界観光機関(UNWTO)が発表した報告資料によると、観光部門の年間売上高の80%は、サファリ、バードウォッチング、トレッキング、ダイビング、アドベンチャーなどの「非消費型」観光によるものである。

 米国では、2011年にSynovate eNationが実施した調査において、米国人の70%がアフリカのサファリでライオンを見るためにお金を払ってもいいと答えている。一方で、ライオンのハンティングにお金を出すと答えた人は6%にも満たなかった。(参考記事:「ライオンはなぜ観光客を殺したのか」

 モザンビークでは、2012年から2013年にかけて野生生物観光の収益が3倍になり、300万ドルになった。

 世界銀行は、スポーツハンティングがこれらの収益を補うと考えている。しかし、メキシコ大学院大学で経済学を教えながら、IUCNの環境・マクロ経済・貿易・投資テーマで共同議長を務めるアレハンドロ・ナダル教授は、スポーツハンティングが農村部のコミュニティに大きな恩恵をもたらすという考えに疑念を抱いている。

 ナダル教授によると、どれだけの収益が上がるかについて、包括的で信頼のおける研究がなされていないという。ましてや、腐敗した政府職員を経て地域コミュニティの手に渡る金額など、わかるはずもないと。

この孤独なゾウは、アフリカ各地の未来を象徴しているのだろうか。モザンビークのマプト・ゾウ保護区にて撮影。(PHOTOGRAPH BY CHRIS JOHNS)
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 一方で、モザンビークの密猟者や密売人は、武器や保護区、国境の抜け道などに無制限でアクセスできる。港や空港からの国外脱出も可能だ。

 警察は6月1日、モアンバ郡南部で、ゾウやサイの狩猟に使うタイプの大型銃2丁を所持していた中国人5人を拘束した。その2週間前の5月14日には、首都マプトで、サイの角65本と象牙340本を隠していた中国人2人が逮捕され、同国史上最大の押収事件となった。

 しかしその数日後、それらの角のうち12本が金庫室から消えた。牛の角で作られたレプリカに置き換わっていたのだ。以降、政府関係者を含む11人が逮捕されている。

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