想像してみてほしい。勤務地まで160kmの静かな町に家を持ちながら、30分で通勤できる生活を。
そんな構想を立てているのが、億万長者の起業家イーロン・マスク氏だ。高架のチューブ内で空気の力を使って人が乗る「ポッド」を浮上させ、ソーラーパワーにより音速で走らせる「ハイパーループ」というシステムを提案している。
この構想は、もはや夢物語ではない。マスク氏は1月の計画発表時、おそらくテキサスにテストトラックを建設すると述べた以外、詳細を語らなかった。その後、別の起業家が合意を取り付け、2016年早々にもカリフォルニア州で全長8kmのコースを起工することが決まった。
このコースは、ロサンゼルスとサンフランシスコをつなぐ高速道路I-5沿いの新しい街、クエイ・バレーの近くに、推定1億ドルをかけて建設される。一連の安全性試験を経て、2018年には乗客を運べる見通しだ。
建設を担当する「ハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジーズ(HTT)」のディルク・アールボーンCEOは、「当社では、これを地下鉄と同じと考えています」と述べている。また、米国内外における「ネットワーク展開を視野に入れる」と述べると同時に、鉄道事業を「恐竜産業」と呼び、高速鉄道は高額すぎるとしている。
空中に浮かび、音速で走行し、さらにゼロエミッションのハイパーループは、飛行機のように速く、列車より安く、天候に左右されないポテンシャルを持つ。そんな技術が、果たして実現できるのか? その命運を決める5つの要素を紹介しよう。
1. マスク氏だけじゃない
「ペイパル」の共同創設者で、現在は電気自動車メーカー「テスラ」のCEOと宇宙開発会社「スペースX」のCEOを兼任しているマスク氏は、2013年8月に58ページの白書を刊行し、アイデアの概要を記している。それによると、ハイパーループとは、「コンコルド、レールガン、エアホッケーを掛け合わせた」ものであり、航空機、列車、船舶、自動車に次ぐ、輸送における「第5のモード」になるという。
マスク氏が名乗りを上げたのは、カリフォルニア州が提案した、最高時速350kmでサンフランシスコとロサンゼルスを2時間半で結ぶ高速鉄道が気に食わないからだ。
それでは遅すぎるため、最高時速1287km(800マイル)で640kmを30分で結ぶ代案をマスク氏は提示したのだ。
しかしマスク氏は他の事業で忙しく、同プロジェクトに手を付けることができなかったため、外部の人間による参入を歓迎すると述べた。2013年にクラウドファンディングおよびクラウドソーシングモデル「ジャンプスタートファンド」を立ち上げたアールボーン氏は、この制度を利用して、大学およびボーイングやスペースXのような企業に勤める専門家に、将来の収益と引き換えにアルバイトの協力を要請した。そうして集まったチームが、後にHTTに姿を変えた。アールボーン氏によると、同社は今年後半または来年早々にも、株式を公開する予定だ。
もう1社、チューブ内高速移動の実現に向けてしのぎを削るのが、ロサンゼルスを本拠地とする「ハイパーループ・テクノロジーズ」だ。同社を率いるのは、スペースX出身のエンジニアであるブローガン・バンブローガン氏、2012年のオバマ大統領再選キャンペーンで選挙対策本部長を務めたジム・メッシーナ氏、ペイパルでマスク氏の下で働いていたデイビッド・サックス氏、有償ライドシェア企業「ウーバー」への投資家であり、マスク氏にハイパーループ構想の発表を促したシャービン・ピシュバー氏など、シリコンバレーとワシントンの重鎮たちだ。
アールボーン氏は、先に始めたのは自分のチームとしながらも、「同じフィールドに競合がいることは歓迎だ」と述べている。しかし、競合の社名とロゴが自社のものと非常に似通っていることは「少々迷惑だ」と述べた。