写真は動物たちを絶滅から救えるか

5400種を撮影したナショジオ写真家が挑む「フォト・アーク」プロジェクトとは?

2015.12.01
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マダガスカルの動物園「レムリア・ランド」でジョエル・サートレイが最近撮影した絶滅危惧種、デッケンシファカ。(JOEL SARTORE, NATIONAL GEOGRAPHIC PHOTO ARK)
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 ナショナル ジオグラフィックのベテラン写真家ジョエル・サートレイは、10年前に妻が乳がんを患って以来、米国ネブラスカ州の自宅で妻の看病と子どもたちの世話をしながら撮影を続けている。そんな暮らしのなかで、彼の頭に浮かんだのが、世界中の動物種の保護を支援する「フォト・アーク(Photo Ark)」という写真撮影プロジェクト。いわば写真を使った「ノアの箱舟」だ。

 この「フォト・アーク」プロジェクトで、これまでサートレイ氏が世界各国の動物園や水族館で撮影した動物は5400種に達したが、プロジェクトはまだまだ終わらない。サートレイ氏は、飼育されている生物1万2000種すべてを記録しようとしているのだ。

 今月、ワシントンD.C.にあるナショナル ジオグラフィック協会のミュージアムで、サートレイ氏の代表作を集めた写真展が開かれている。そこでサートレイ氏に、「フォト・アーク」に込める思いを聞いた。(参考記事:「人間と見まがう動物たちの表情 ジョエル・サートレイの世界」

死ぬまでに1万2000種を撮影したい

――「フォト・アーク」を立ち上げたきっかけは何ですか?

 私はナショナル ジオグラフィックの写真家として何年も世界を旅し、たくさんのフォト・ストーリーをまとめてきました。ですが妻のキャシーが乳がんを患い、化学療法と放射線療法に多くの時間を割かねばならなくなり、私は自宅にいることが多くなりました。

 キャシーの具合がよくなってくると、私は自宅から2キロも離れていないリンカーン児童動物園に通い、背景を白か黒にして動物の写真を撮るようになりました。それまで、そんな撮り方はしたことがありませんでした。最初に撮ったのはハダカデバネズミです。

――その試みが、どのようにして現在の形になったのでしょうか?

 この10年間で、米国内だけで200の動物園や水族館へ行き、外国の施設も多く訪ねました。5400種を撮影しましたが、飼育されている種は世界中に1万2000種もいます。私が死ぬまでにそのすべてを写真に収め、今の時代に生息する生物の多様性を世界中の人々に見てもらうことが目標になりました。

 背景を白か黒にするのは、どの種も等しく大切だと示せるからです。トラと昆虫の存在価値に差はありませんし、ネズミとホッキョクグマも同じくらい大切です。人々が種の絶滅という危機に注意を向け、関心を持ってくれたらと思います。危機に瀕する種をまだ救えるうちに。

【写真集】フォト・アーク 守りたい動物たち10選
写真集はこちら(次ページ)
(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE)

――動物に関心を持ったきっかけは何だったのですか?

 両親の影響で、自然史にはいつも関心を持っていました。タイムライフ社の『ザ・バーズ(The Birds)』という本を母が買ってくれたのですが、そのなかにリョコウバトの最後の1羽となった、マーサの写真がありました。マーサは1914年にシンシナティ動物園で死に、リョコウバトは絶滅しました。

 私はその写真から長い時間目が離せず、何度も何度もその本を読み返しました。かつてはリョコウバトが無数にいたというのに、人間は最後の1羽になるまで乱獲してしまったのです。その本には、種が絶滅するとはどういうことかが書いてあり、成長してもずっと記憶の中にありました。私はあの本とマーサの写真を忘れたことはありません。

――どのようにして、行動を起こすよう人々に訴えかけているのですか?

 2100年までに、すべての生物種の半分が絶滅する可能性があるといいます。今はいわば時間との戦いです。この予測が現実のものになれば、人類も打撃を受けます。例えば昆虫は果物や野菜の受粉に欠かせません。健全な熱帯雨林がなければ、気候がうまく調整されず、農地に雨は降りません。食料の源であり、気候を維持してくれる健全な海ももちろん必要です。

「フォト・アーク」で撮影した種が人々の関心を呼び起こし、彼らが保護活動に参加するきっかけになればと思っています。私たちがこの地球でどんなに素晴らしい生き物たちとともに暮らしているのか理解し、関心を持つのはとても大切なことです。そうでなければ、このプロジェクトは「保護しなかったがためにこれだけの生物が滅んだ」と未来の人々に伝えるだけのものになってしまいます。自分が乗っている救命ボートに火がついていると想像してみてください。今はまさにそういう状況なのです。他の種を守るというのは、人間を守ることでもあるのです。

目と目が合う体験が、人の心を変える

――動物園や水族館が、種の保存に不可欠と考えるのはなぜですか?

 動物園や水族館は、間違いなく現代における「ノアの箱舟」です。野生では事実上絶滅した多くの種を、繁殖が可能な個体数で飼育していますから。また、都会に暮らす人々にとって、動物園は生きた動物をじかに見られる唯一の場所というケースも少なくありません。テレビやインターネットで見るのとは違い、耳で聞き、目で見て、においをかぐこともできます。動物と目と目が合う経験は、間違いなく人の心を動かし、行動を変えるのです。(参考記事:「動物園はノアの箱舟」


【動画】目標は1万2000種!撮影の舞台裏:ペットの写真をうまく撮れないという人は多いが、それがアルマジロやトラの成獣ならなおさらだ。写真家ジョエル・サートレイ氏は、飼育されている生物1万2000種をすべて生きているうちに撮影するプロジェクトに取り組んでいるが、撮影には苦労が絶えない。気ままな動物をなだめすかし、好奇心旺盛な動物の気をそらし、動物の撮影には付きものの思わぬハプニングに対応しなければならない。

――これまで多くの動物を撮影した中で、最も記憶に残っているのは何ですか?

 何がお気に入りかと聞かれたら、「次に撮る動物」と答えています。次はどんな動物と出会うか考えるといつもわくわくしますし、世界の人々に紹介すべき動物たちに会えるのが、本当にうれしいのです。

 例えば、少し前にマダガスカルから帰ってきたのですが、そこの動物園で飼育個体としては唯一のデッケンシファカを見ました。白いウールのコートを着ているような外見で本当に面白いのですが、世界的にはまだあまり知られていません。こうした種について伝えることができるのは名誉なことです。

――「フォト・アーク」で動物をすべて撮り終えたら、何がしたいですか?

「安らかに眠る」でしょうか(笑)。あと15年くらいかけてプロジェクトをやり終えたら、もう何もしたくないでしょうね。きっと首や背中、ひざがボロボロですよ。撮影のためにしょっちゅう地面や床を這いつくばっていますから。

 ああ、釣りには行きたいです。もちろん、キャッチ・アンド・リリースでね。

次ページで、サートレイが「フォト・アーク」で撮影した動物たちを紹介

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