人を襲ったクマは殺されるべきか

米イエローストーン公園の決定が世界中で議論に

2015.08.25
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悲嘆から前進へ

 イエローストーンで先週処分された母グマも「399」とほぼ同じ年齢で、事故の際に連れていた2頭以外にも、数頭の子を産んでいた。

 人とクマとの共存を目指して活動する団体「People and Carnivores」に協力している科学者、スティーブ・プリム氏は、「今回の事故現場で何が起こったのか、完全に把握する方法はありません」と話す。「得られているのは、単独で、護身用具を持たないハイカーが、ハイイログマの母子に遭遇した、というわずかな事実のみです。ハイイログマは完全に捕食が目的で襲ったのか、それとも身を守ろうとして結果的に致命傷を与えたのでしょうか?後者だとしたら、クマがハイカーの遺体を食べたのは驚くべきことなのでしょうか?」

 今になって議論で勝ち負けを競ったり、ウェンク氏を悪者扱いしたりしても、得るものはないとプリム氏は指摘する。「むしろ我々は、この件でなぜこんなに心が痛むのかを考える必要があるのかもしれません。この深い心痛にヒントがあります。こうした感情に健全に対処する一番の方法は、現実を踏まえて、ハイイログマの管理に関して実現可能な改善策を見つけていくことです」

 もう1つ、ウェンク氏が今回の件で目を見張ったのは、自然を愛する人々が発する懸念の声を広く拡散させた、ソーシャルメディアの力だ。彼のオフィスで、「あなたの判断に寄せられた人々の反応をどう感じたか」と尋ねてみた。

「どれも率直な意見であり、この仕事をしている限りは全て受け止める必要があります」とウェンク氏。「イエローストーンが人々にこんなにも強い感情を呼び起こし、また、人々がハイイログマのために声を上げるべきだと感じたというのは喜ばしいことです。慌ただしいこの社会には、無関心という病が蔓延しています。そんな中で、多くの人がこの公園を気に掛けてくれたことに感動を覚えました。イエローストーンも、そこに生きるハイイログマも、いかに重要な存在であるかが示されたのです」(参考記事:「森の精霊と呼ばれる白いクロクマ」

文=Todd Wilkinson/訳=高野夏美

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