ザトウクジラが異例の低い声、メスの歌か

米ハワイ沖でこれまでと異なる極めて低いビート音を録音

2015.12.10
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米国ハワイ、マウイ島沖で、ザトウクジラのオス(写真下)と泳ぐメス。これまで、メスは音を発しないと考えられてきたが、新たな研究結果によれば、低周波の独特な歌声を持っているかもしれないという。(PHOTOGRAPH BY FLIP NICKLIN, MINDEN PICTURES/CORBIS)
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 新たに公開されたザトウクジラの歌声が、あまりに聞き慣れない音のため、専門家たちはどう解釈したら良いものか首をひねっている。

 ザトウクジラと言えば、1970年にその鳴き声を録音したレコード「Songs of the Humpback Whale(ザトウクジラの歌)」がリリースされ、大ヒットを記録した。しかし最新のサウンドは、それとはまったく異なる極めて低いビート音で、人間の耳ではほとんど聞き取ることができない。(参考記事:1979年1月号付録「ザトウクジラの歌声」のレコード

 米ハワイ州にある研究機関ホエール・トラスト・マウイの生物学者ジム・ダーリン氏によると、その音は人間の聴力のほぼ限界に近く、いわゆる「パルス波」のような鼓動で、これまでに確認されているザトウクジラのどんな鳴き声よりも低い音であるという。

「聴診器で聞く心臓の鼓動のような音です」と、ダーリン氏は説明する。この研究は、11月5日付「Journal of the Acoustical Society of America」誌に発表された。

 毎年冬になると、1万頭のザトウクジラがハワイ州マウイ島近海へ、出産や交尾のためにやってくる。ダーリン氏の研究チームは、ナショナル ジオグラフィック協会の支援を受け、ここに集まるクジラたちの声を録音した。

最新のクジラのサウンド。ヘッドホンを着用すると、心臓の鼓動のようなパルス音を聞くことができる。

 通常オスが発する複雑で広い音域の「クジラの歌」は、80~4000ヘルツ(Hz)の可聴周波数を持っている。しかし、最新のパルス音はそれよりもはるかに低い、40Hz前後の周波数しかなかった。人間が聞き取ることのできる低音の限界は20Hzだ。(参考記事:「海の歌い手 ザトウクジラ」

「ザトウクジラの発する特定の音は聞き慣れていましたが、それらとはかなり違うものでした」と、ダーリン氏。

背景の雑音の可能性は

 2008年頃、ヘッドホンで初めてその低いビート音を拾った時、ダーリン氏は思わず空を見上げてヘリコプターの姿を探したという。次に、付近に船か「潜水艦でもいるのかと思いました。まさか、クジラの音だとは考えもしませんでした」

 そうした海の背景音との区別は難しく、「クジラの発する音であると自分を納得させるのに何年もかかりました」と、ダーリン氏は言う。

 いまだに、100%の確信は持てないという。(参考記事:「ザトウクジラ、海底でも捕食行動」

「慎重に進めたいと思っているだけです。ほぼ間違いないとは思いますが、クジラ以外の何ものかによる音であるという可能性もまだ捨てきれません」

 しかし、カリフォルニア州にあるモス・ランディング海洋研究所で脊椎動物を専門とする生態学者アリソン・スティンパート氏は、それがザトウクジラの音だとしても不思議はないとしている。

「ザトウクジラにしてはとても低い周波数ですが、彼らはほぼ間違いなく、ヒゲクジラ亜目の中で最大のレパートリーを持った歌い手ですから」と、スティンパート氏はメールでコメントした。

 シロナガスクジラやナガスクジラも、今回の周波数と同程度のパルス音を発するという。「ただ、その行動面における機能についてはまだ研究段階です」。同氏は今回の研究には参加していない。

「歌手」はメス?

 現段階では、このパルス音がザトウクジラのコミュニケーションにおいてどのような役割を果たしているのかは明らかではない。

 しかし、大人のメスがオスと一緒にいる時にこの音が録音されたことから、交尾行動と何か関係があるのではないかと思われる。

 オスとメスのどちらが発しているのかも不明だが、これまでおとなしいと考えられていたメスが、にぎやかで音楽好きなオスに交じって存在を主張するために発しているのではないかという可能性もある。(参考記事:「ザトウクジラの狩りは“文化”か?」

「ザトウクジラがなぜ歌を歌うのかは、まだ分かっていません。メスへ向けたものなのか、それとも他のオスへ対するものなのか。また、どれがメスの発する音なのかも特定されていません」

 メスがどのようにオスの気を引くのか、あるいは求愛を拒むのかも知られていない。そのため、「これらの音がメスのコミュニケーションの手段かもしれないという考え方は大変興味をそそるものです」と、スティンパート氏は語る。

 はたして、「ザトウクジラの歌」最新版のリリースも近々実現するのだろうか。

文=James Owen/訳=ルーバー荒井ハンナ

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