ツタンカーメンの隠し部屋、日本の技術者が活躍

日本人技術者によるレーダースキャン調査はこうして行われた

2015.12.03
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古代エジプトと現代技術の遭遇

 今回の調査では、そもそもの始めからハイテクが大きな役割を果たしてきた。初日のスキャン作業の開始前、リーブス氏はこう語っていた。「私はツタンカーメンの墓にはもう30年も通っています。しかしこの墓の内部に関する最も興味深い発見がなされた場所は、墓の中ではなく、インターネット上でした」

 2009年、博物館関係者や芸術家が所属するスペインの団体「ファクトゥム・アルテ」が、ツタンカーメンの墓を高解像度でレーザースキャンする作業を開始した。第一の目的は、墓の精巧なレプリカを作ることだった。彼らがすべてのスキャンデータをネット上に公開すると、当時、米メトロポリタン美術館で仕事をしていたリーブス氏は、すぐにこれに注目した。(参考記事:「レーザーで遺跡をデジタル保存」

「このスキャンのすばらしい点は、初めて壁の本来の状態が確かめられるようになったことです。壁に描かれた絵を眺めていると、ついそちらに気を取られてしまいます。しかし絵を取り除くことで、まったく異なる景色が見えてくるのです」

墓の壁を指し示しながら、レーダースキャンについてリーブス氏と話し合う渡辺氏。(PHOTOGRAPH BY BRANDO QUILICI, NATIONAL GEOGRAPHIC CHANNELS)
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 ファクトゥム・アルテが公開したデータでは、壁画が取り除かれた状態で、壁の表面の状態が白黒画像として表示されていた。リーブス氏は玄室の北側と西側の壁に、完全にまっすぐで垂直な線が複数あり、それが出入り口を塞いでいる隔壁の形状だと考えるとつじつまが合うことに気がついた。

 リーブス氏の専門は、古代エジプト史においてもとりわけ波乱が多く謎に満ちた第18王朝だ。この時代の重要なファラオであるアクエンアテンは、エジプト人の信仰に大胆な改革を加え、太陽神アテンを唯一神とせよと命じた。彼の第一王妃はネフェルティティであり、後に共同統治者となった。「ネフェルティティが最高権力の座にいたことは、数年前からわかっていました。これはつまり、通常の王妃よりも強い権力を持っていたということです」

 リーブス氏は以前から、ネフェルティティが夫よりも長生きしてファラオとなり、スメンクカーラーと名前を変えたのではないかと考えてきた。リーブス氏はまた調査の一環として、ツタンカーメンの墓から出土した遺物を精査し、遺物の約80パーセントが、もともとは誰か別の人物――女性――のために作られたものだと結論づけた。さらに彼は、あの有名な黄金のマスクにさえも修正が加えられていた明らかな証拠を発見している。カルトゥーシュ(枠線)に囲まれた王の名の下に、以前に刻まれていた別の名前の痕跡が残っていたのだ。(参考記事:「ツタンカーメンの性器に政治的背景か」

 こうした調査結果と、ファクトゥム・アルテのスキャンデータから読み取れる特徴とを組み合わせたとき、リーブス氏にはすべてが一つの結論を指しているように思えた。つまりネフェルティティはアクエンアテンの後にファラオとなり、死後墓に埋められたが、その墓はわずか19歳で急死したツタンカーメンのために急遽作り変えられたのだ。今年の7月、リーブス氏は自らの仮説を述べた「ネフェルティティの墓?」と題した論文を発表した。(参考記事:「エジプト王妃ネフェルティティの墓に新説」

コンピューター画面を示しながら解説する渡辺氏。色とりどりの線は、壁の素材の構造を判別するためのデータとなる。(PHOTOGRAPH BY BRANDO QUILICI, NATIONAL GEOGRAPHIC CHANNELS)
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 9月末、ダマティ考古相やリーブス氏らは墓を詳しく調べ、こうした仮説を裏づける証拠を複数発見した。なかでも、天井にくっきりと入った1本の線と、北壁の表面の状態が途中で明らかに変化していることは注目に値した。これらの特徴は、ファクトゥム・アルテによるスキャンデータに見られる線と完全に一致していた。この時点で、リーブス氏の考えは単なる仮説ではなくなった――今や物理的な証拠が見つかったのだ。

 2011年に始まった革命以降、エジプトは経済が衰退し、政治不安と暴動に苦しんできた。驚くような考古学上の発見があるかもしれないという情報は、母国に関する明るいニュースを切望している役人たちの興味も引いたようだ。調査初日、ルクソール県知事のムハンマド・ベドル氏が、パトカーと黒いジープの車列を連ねて王家の谷にやってきた。知事はスキャンが開始される前にダマティ氏とリーブス氏に面会した。

 いかにも明るいニュースを待ち望んでいるといった空気に、調査の関係者は皆、見るからに圧倒されていた。渡辺氏が玄室の西壁のスキャンを始める直前、今どんな気分かと聞かれたダマティ氏は、「少しナーバスになっています」と答えてから、こう言い直した。「実を言えば、かなりナーバスになっています」

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