コウモリの大量駆除は是か非か?

モーリシャス島で進むコウモリ駆除計画に、二人の科学者が反対を表明

2015.11.16
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インド洋に浮かぶ小さな島、モーリシャス島(モーリシャス共和国)にしか生息しないクマオオコウモリ。(PHOTOGRAPH BY JACQUES DE SPEVILLE)
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モーリシャス島でコウモリを駆除しようという計画が進んでいる。これに反対する二人の科学者がナショナル ジオグラフィックに寄稿した。

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 インド洋に浮かぶモーリシャス島(モーリシャス共和国)には、金色の毛皮をまとったコウモリが生息している。クマオオコウモリ(学名Pteropus niger)と呼ばれ、この島にしかいない固有種だ。

 このコウモリは見た目が美しいだけではない。生態系に多大な恩恵をもたらしてくれる。たとえば、さまざまな植物種の授粉や種子の拡散を助けているのだ。そのなかには、モーリシャス固有の植物種もいくつかある。これまで破壊されてきた森を再生するためにも、このコウモリの存在は重要だ。(参考記事:「コウモリと食虫植物の奇妙な互恵関係」

 クマオオコウモリは、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種(Endangered)に指定されていたが、2013年に危急種(Vulnerable)に変更され、絶滅の危険度は1段階下がった。この変更は、今後このコウモリの駆除をしないといった条件が組み合わさってなされたはずだった。(参考記事:「世界一有名なコウモリ博士の足跡」

 複数の専門家によると、現在の個体数はせいぜい数万匹とみられる。モーリシャス政府は9万匹と発表しているが、現地のNGO「モーリシャス野生生物財団」などは政府が発表した個体数に疑問を呈している。

オオコウモリは顔がキツネに似ていることから、英名でflying fox(空飛ぶキツネ)とも呼ばれる。コウモリのなかでは大型で、翼を広げた幅は70センチほどになる。(PHOTOGRAPH BY JACQUES DE SPEVILLE)
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 目下、モーリシャス政府は、果実のライチやマンゴーといった主要作物に深刻な被害をもたらすという根拠のない理由から、1万8000匹ものクマオオコウモリを駆除する計画を進めている。駆除は保護区内でも行われる予定だ。

 ところが、果実への被害の実態について調査した科学的なデータはほとんどない。モーリシャス野生生物財団は2014年、コウモリやほかの動物(鳥やネズミなど)が果実に及ぼす影響について試験的に調査した。その結果、コウモリがもたらす果実への被害は「きわめて小さい」ことが明らかになった。

 コウモリ駆除が間違いだと私たちが主張する根拠は、以下のとおりだ。

コウモリは森を救う

 モーリシャス島で森林が占める面積は、今や2パーセントにも満たない。2013年に発生した洪水では死者が出ているが、大規模な森林伐採が洪水による被害を深刻化したのではないかと考えられている。森林がなくなると、豪雨によって広範囲で浸水が起き、土壌が浸食されるだけなく、住民のインフラにも被害が出る。

 クマオオコウモリは植物の種子の拡散と授粉を助けるため、失われた森林の再生には欠かせない存在だ。その駆除は、人間と自然を大切にしている国の論理に反している。(参考記事:「コウモリを誘う花の“声”」

依然として絶滅が危ぶまれている

 コウモリにとって、サイクロンなどの自然現象のほか、森林伐採などの人的圧力も大きな危険要因だ。つい最近、IUCNが暫定的にクマオオコウモリの絶滅の危険度を再び引き上げたことを考えると、駆除はナンセンスでしかない。

 モーリシャス島のオオコウモリのうち、2種はすでに絶滅している。モーリシャス政府も、オオコウモリが絶滅した国として歴史に記録されることは望んでいないはずだ。(参考記事:フォトギャラリー「パナマのコウモリ」

モーリシャス島のクマオオコウモリは、黄金色の毛皮が特徴だ。(PHOTOGRAPH BY JACQUES DE SPEVILLE)
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コウモリは悪魔ではない

 いまだにコウモリには、よくないイメージが付きまとっているため、それを払拭しようと懸命に働きかけている人も多い。今日、世界中のさまざまな国でコウモリの保護プログラムが成果を上げており、保全状況の見通しが改善された種も多い。

 その結果、種子の拡散、授粉、害虫の防除といったコウモリの恩恵が注目されつつある。クマオオコウモリの駆除は、コウモリへの偏見を広げるだけでなく、モーリシャスが近代社会の一員ではないと示すことになる。(参考記事:「花粉の運び屋たち」

残酷な行為である

 政府がクマオオコウモリを駆除すると、それ以上の数のコウモリが結果的に死ぬことになる。駆除されるコウモリの多くは授乳中の雌であるため、必然的にその子も飢えてじわじわと死んでいくのだ。傷を負っただけですぐには死なないコウモリも多いだろうから、その場で駆除される以上の数のコウモリが命を落とすことになる。

科学に反する

 モーリシャス政府には、確たる科学的根拠に基づき、その分野でも指折りの専門家の意見を聞きながら、政策やその実施について判断を下してきた、すばらしい歴史がある。私たちがモーリシャス政府に促したいのは、手遅れになる前に駆除を考え直し、中止し、クマオオコウモリが近絶滅種(Critically endangered)に分類されないようにすることだ。

筆者のロドリゴ・A・メデジン氏はメキシコ国立自治大学生態学研究所の上級教授。メデジン氏の研究は米ナショナル ジオグラフィック協会のエクスペディションズ・カウンシルの支援を受けている。ポール・A・レイシー氏は英国スコットランドのアバディーン大学の自然史欽定(名誉)教授。両氏の見解は、必ずしもナショナル ジオグラフィックの見解を反映したものではない。

文=Paul A. Racey and Rodrigo A. Medellín, National Geographic/訳=倉田真木

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