米国フロリダ州にある筆者の自宅では、ドアを開けると必ずヤモリなどのトカゲが素早く逃げていく。もちろん文句のひとつも言わずに。
しかし、もしかしたらその声が聞こえていないだけかもしれない。
今回は、Facebookに寄せられた「ヤモリは声を出しますか?」という質問に答えよう。ヤモリに言葉があるかどうかを複数の専門家に尋ねてみた。結論を言うと、ヤモリは決して無口な役者ではないようだ。(参考記事:「“歌う”ペニス、鳴き声の大きな生物」)
ヤモリはおしゃべり
カリフォルニア州立大学ノースリッジ校の生物学者ロバート・エスピノーザ氏は電子メールで、「確かに、ほとんどのトカゲは声をもちません。しかし、さまざまなやり方で音を立てる種は多くいます」と回答した。
特にヤモリはおしゃべりで、「さえずるような声やカチッという音、甲高い声も出します。人間の耳に届かない音もあります」
ウィスコンシン大学スティーブンズポイント校の生物学者ピーター・ザニ氏も次のように述べている。「ヤモリのさえずりは“ほえる”とも表現され、ほかの雄との縄張り争いや、雌の気を引く求愛行動に使われます」
ザニ氏は注目すべき種として、チチュウカイヤモリを挙げる。甲高い声を出しながら戦い、カチッという音で雌を誘惑する。中南米に生息するターニップ・テイル・ゲッコーは縄張りを主張するときにカチッという音を立てるが、これは昆虫の模倣と考えられている。また、体長36センチに達する最大のヤモリ、ツギオミカドヤモリはうなり声を上げるため、現地では“樹上の悪魔”と呼ばれる。
名前が音に由来するヤモリもいる。アジアに分布するトッケイヤモリの雄は雌に求愛する際、「トッケイ、トッケイ」と大声で鳴き続ける。(参考記事:「Photo of the Day:トッケイヤモリ」)
トカゲの言葉
ヤモリほどおしゃべりではないかもしれないが、音声で意思を伝達するトカゲはほかにもいる。
その一つが、「シーッ」という音を出すアメリカドクトカゲだ。ザニ氏によれば、通常は防衛のために使われ、この音で捕食者を追い払うという。(参考記事:「動物大図鑑:アメリカドクトカゲ」)
「肺から押し出した空気が声門を通るときに、この音が出る」と、エスピノーザ氏は説明する。「たいてい同時に口を大きく開き、かみつく意志があることを捕食者に伝えます」
米国南西部に生息するこのトカゲにかみつかれると、歯の溝から神経毒を注入される。
オーストラリアのアオジタトカゲやオオトカゲも、シーッという音で威嚇する。オオトカゲは、のどの周囲にある皮膚を膨らませることで警告音を発する。
「シーッという音を出すのはたいてい大きなトカゲです」とエスピノーザ氏は説明する。「おそらく小さい動物がこのような警告を発しても、たいした脅威にならないためでしょう」
トカゲが声を出すのは「特定の種だけに見られる特徴ではありません」とエスピノーザ氏は話す。「つまり、種の系統ごと別々にこのような能力を発達させたということです。理由は、どの種も似たようなものでしょう」
現存するなかでトカゲ類に最も近い仲間である、ニュージーランドのムカシトカゲも音を立てる。エスピノーザ氏によれば、攻撃されるとしわがれ声を出し、「求愛するときはもっと柔らかい声になる」ことが知られているという。
それでは、私がうっかり驚かせてしまうヤモリたちはどうだろう? エスピノーザ氏によれば、春から夏の夜に聞こえてくるさえずり声はヤモリのしわざかもしれないという。
聞こえないなどと言ったのは間違いだったようだ。