世界で最も歴史のあるワイルドライフの写真賞「ワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー」の受賞作品が発表された。第51回の最優秀賞に選ばれたのは、内臓を取り出したホッキョクギツネを引きずるアカギツネの写真だ。凍て付くカナダで撮影された。
審査員の1人、ナショナル ジオグラフィック誌シニアエディターのキャシー・モランは「この1枚を見ただけで、物語が伝わってきます。これほど力強い写真はほとんど見たことがありません」と高く評価する。(参考記事:「ワイルドライフ・フォト・オブ・ザ・イヤー2014受賞作品」)
この写真にはいくつもの要素が盛り込まれています、とモランは指摘する。劇的な瞬間をとらえただけでなく、気候変動の現実を伝えている。亜寒帯の温暖化により、アカギツネの生息域が北極圏まで拡大した。その結果、2つの種が衝突しているのだ。
18部門4万2000枚以上の応募作品を抑えて頂点に輝いた1枚だ。
受賞者と最終候補者の中には、ナショナル ジオグラフィックの写真家が何人か含まれている。象牙の密猟を題材にしたブレント・スタートン、サメとクラゲを1枚の写真に収めたトマス・ペシャック、ツナ業界の実情を記録したキャリーヌ・アイグナー、海ガメのタイマイを撮影したデビッド・デュビレ、アフリカのハゲワシの生態に迫ったチャーリー・ハミルトン・ジェームズだ。
それでは、11枚の受賞作品を紹介しよう。恋人を探すイモリ、夜のシロイワヤギ、空から見た海岸などを楽しんでほしい。
戦利品
象牙を持つ元密猟者マイケル・オリエム氏。この場所に象牙が保管されていたが、オリエム氏の協力により、ウガンダ当局が押収。オリエム氏は9歳のとき、武装グループに連れ去られ、象牙の密猟を強制される。後に逃亡し、現在は密猟の阻止に取り組んでいる。(参考記事:「密猟象牙の闇ルートを追う」)
軽くひと突き
ニシアカアシチョウゲンボウの若いメスが成鳥のオス(グレーの個体)を爪でつつき、別のメス(右の個体)が休む場所をつくろうとしている。血縁のない個体がこのように交流するのは非常に珍しい。
夜の白ヤギ
写真家のコナー・ステファニソン氏はこの場所で3日間キャンプを張り、シロイワヤギたちを慣れさせた。その成果がこの1枚だ。ヤギたちはステファニソン氏の存在にすっかり慣れ、1匹は撮影中のステファニソン氏をかすめるくらい近くを通った。(参考記事:「絶壁に生きるシロイワヤギ」)
恋人探し
葉を落とした木々を背景に、小川の水面近くを漂うホクオウクシイモリ。繁殖期に撮影された1枚で、このオスはメスを探していた可能性が高い。
イワシをひと飲み
イワシの群れをひと飲みにしようとするニタリクジラと、渦を作るように泳いで逃げ惑うイワシたち。このイワシたちはマイルカが泡の網をつくって追い込んだもの。写真のニタリクジラを含む5種類の捕食者が群がった。
モザイク
湿地やアシ、砂丘、砂浜でできたこのモザイク模様は、スペイン、アンダルシアの海岸を通過する渡り鳥にとっては重要な中継地だ。海草、藻類ブルーム、塩田、茶色やオレンジの堆積物がカラフルな景色を描き出している。(参考記事:「渡り鳥 最後のさえずり」)
ポップカラー
ブラジル北東の海沿いにある砂丘を飛ぶショウジョウトキの群れ。若き写真家ジョナサン・ジャゴット氏(15~17歳部門の優勝者)は神経質な鳥たちに近付くことができず、飛び立つのを待って撮影した。
見世物
爪と歯を抜かれた大型ネコ科動物たちのパフォーマンス。中国、桂林で撮影。中国政府は動物園に対し、野生動物に芸をさせないよう指導している。しかし、明確な指針が示されていないため、今も変わらず続けられている。
舞台芸術
写真家フアン・タピア氏はこの1枚を撮影するため、絵画に鳥が通り抜けられる穴を開け、ツバメたちがよく通る割れた窓に取り付けた。そして、8時間じっと待ち、この瞬間をとらえた。
歩く影
庭の壁に影を落とす都会のキツネ。英国、サリーで撮影。この1枚を実現するには綿密な計画が必要だった。地面の高さでフラッシュをたき、正確な場所に三脚を置き、適切な露出を計算しなければならない。そして、幸運も。(参考記事:「北欧 廃屋の動物たち」)
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