世界の貧困対策、カギは農村と女性

国連食糧農業機関の報告書『世界食糧農業白書2015』より

2015.10.19
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家畜の飼料を運ぶインドの女性。インドでは、女性労働人口の60%近くが、農業に従事している。(Photograph by Alex Treadway, National Geographic Creative)
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 貧困に苦しむ人々の割合は、過去30年で減少してきた。それでも世界人口の4分の1以上は、今も十分な収入が得られず、食糧を安定的に買うことができない。また、1日当たりの購買力が1.25ドル以下の貧困層は、10億人に上る。

 そう指摘するのは、国連食糧農業機関(FAO)の『世界食糧農業白書2015年報告』だ。同報告書では、アジアの一部など都市化や経済成長が著しい地域では貧困が改善しているとしながら、発展途上の地域やサハラ以南のアフリカでは、依然として貧困が根強く残っており、人口の半数近くが貧困層に属していると指摘する。

 対策として報告書が強調するのは、「貧困層を支援する制度を設けて、農業の生産性を向上させること」だ。

 支援の中で最も広く行われているのは、公的な経済的支援だ。こうした社会支援制度には、受給者が返済する必要のない現金の支給や、無料の学校給食といった現物支給、さらには、公共事業への雇用制度などがある。

 家庭の所得が増えれば、食料を購入でき、発育不良を防ぎ、罹患率も下がる、と報告書は指摘する。「社会支援とは、家庭での食べ物の摂取を増やし、目の前の生存不安を取りのぞき、もし不安要因に直面しても回避できるよう対処能力を高めることです」と、FAOのエコノミストで報告書の主筆でもあるアンドレ・クロッペンシュテッド氏は語る。

人口に占める貧困層の推移
低所得、中所得の国々における貧困層(1日の購買力が1.25ドル以下)の比率(%)
東アジア・太平洋
ヨーロッパ・中央アジア
中南米
中東・北アフリカ
南アジア
サハラ以南のアフリカ
低・中所得の国々すべて
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1981
南アジア
61.4%
NG STAFF
SOURCES: World Bank; FAO

農村を支援対象に

 社会支援の成功例のひとつに、ザンビア子ども助成制度がある。これは、貧困率と小児死亡率が高い地域において、5歳未満の子どものいる家庭に金銭的な援助をする制度だ。これにより、受給者は自分の土地での農業生産性を上げることができ、ザンビア全土で従来より食糧を安定的に確保できるようになった。

 ここで重要なのは、農村を支援対象とすることだ。なぜなら、世界の貧困層の大半は農村に暮らすからだ。彼らは農業を生活の糧とし、所得の大半を食費に充てている、とクロッペンシュテッド氏は言う。だからこそ、農業への投資が、貧困や飢餓対策のカギになる。

 さらに、農閑期に所得がなくなる農村部での、就労の空白期間を埋める役に立つのが、公共事業だ。インドでは、マハトマ・ガンジー国家農村雇用保障法(世界最大規模の貧困撲滅制度)により、農村世帯の成人は、1年に100日まで、熟練のスキルを必要としない単純作業に就くことができる。2011年には、農村世帯の5500万人が就労した実績がある。

女性の支援

 女性を対象にした支援は、安定した食糧の確保や、子どもの健康状態の向上につながる、と報告書は指摘する。

 農村では、労働人口に占める女性の割合が増えているため、女性への支援は、農村の貧困を減らすために不可欠だ。女性はまた、子どもの教育や健康、食事に割く時間がどうしても長くなる。健康な子どもを育てることは、貧困の連鎖を断ちきる助けにもなる。

 クロッペンシュテッド氏によると、金銭支援制度の主な受給者は、社会的に弱い立場にある貧困女性たちだと言う。制度のおかげで、女性は自分にお金をかけることもできる。小規模な事業を立ち上げたり、新しい農機具を購入したり、自分の勉強に投資したりもできる。

 支援制度があることで、依存したり、労働意欲がそがれたりすることはない、とクロッペンシュテッド氏は言う。これまでの事例から、貧困家庭の主なお金の使い道は、自分たちが食べる食糧の質と量を改善することだからだ。こうした制度は、生活レベルの改善や、全体的な生産性の向上に役立つはずだ。

文=Kelsey Nowakowski/図表=Mónica Serrano, Chiqui Esteban/訳=倉田真木

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