カナダのCO2回収貯留施設が1周年、普及の鍵は

40万トンを回収し、滑り出しは良好。だが、将来性は未知数

2015.10.16
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カナダ、サスカチュワン州のバウンダリーダム火力発電所。老朽化した発電所を、サスクパワー社が炭素回収・貯留(CCS)技術を活用した発電所へと造り替えた。(Photograph via Saskpower CCS)
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 カナダ、サスカチュワン州の冷え冷えとした平原で、「クリーンな石炭」が現実となりつつある。2014年10月に稼働を始めたバウンダリーダム火力発電所は、10万世帯分の電力を生み出しながら、排出され温室効果をもたらす二酸化炭素の大部分を回収・再利用することをうたう。

 この発電所は世界の注目を集めている。世界中の電気の大半が化石燃料によって生み出されていることから、推進派はバウンダリーダム火力発電所で用いられているような二酸化炭素回収貯留(CCS)技術が、気候変動による最悪の結果を食い止めるのに決定的な役割を果たすかもしれないと期待しているのだ。およそ11億ドルをかけたカナダのCCSプロジェクトは、その主張を証明してくれるのだろうか。(参考記事:「石炭はどこまで「クリーン」になれる?」

 今のところ、発電所は良好な滑り出しを見せているが、決して最終的なものではない。ここでは排出する二酸化炭素の90%を回収し、近くの油田に圧入して採掘量増加に役立てている。操業する電力会社「サスクパワー」によれば、これまでに40万トンの二酸化炭素を回収したという。

 今年の末までに発電所がフル稼働となれば、回収量は年間100万トンにまで伸びるとサスクパワーは発表している。20万台以上の車を道路から消したのに相当する効果だ。そうなれば温室効果ガスの排出量は、出力が同程度の新しい天然ガス発電所のおよそ3分の1に抑えられる。(参考記事:「天然ガス、CO2排出量の削減効果低い」

環境団体は賛否両論

 先週ワシントンD.C.で開かれたエネルギー会議で、サスクパワーのマイク・マーシュ社長兼CEOは、バウンダリーダム火力発電所に関して自信を見せる一方、まだ「多くの微調整をしている」と認めた。

 一部の環境団体は好意的だ。米国ボストンに本拠を置く「クリーンエア・タスクフォース」の化石燃料移行プロジェクト責任者、ジョン・トンプソン氏は、「素晴らしい1周年だ」と歓迎し、バウンダリーダム火力発電所を「世界的に重要な事業」と呼ぶ。

 現在、世界中で14のCCSプロジェクトが始動しているが、そのうち発電所に設置されているのはバウンダリーダムのみ。もう1つの大規模な事業として、米電力大手サザン・カンパニーがミシシッピ州に建設中のケンパー郡エネルギー施設がある。バウンダリーダム火力発電所から2年遅れで運転を始める予定で、予算は40億ドルを超す。自然保護団体シエラクラブはこの事業が「クリーンではなく、高価で不必要」だとして差し止めを求める訴訟を起こしている。

CCS事業にかかった費用は約11億ドル。サスクパワーのマイク・マーシュ社長兼CEOは「もちろん、リスクを取った」と話した。(Photograph via Saskpower CCS)
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 ケンパーでもバウンダリーダムでも、炭素の割合が低く、水分の多い「褐炭」を使う。特にドイツや中国で多く使われている低品位の石炭だ。どちらの発電所も、この石炭を燃やして出た二酸化炭素を、近くにある油田の寿命を延ばすのに用いる。

なぜ化石燃料への依存に大金を?

 気候変動を心配する人なら誰でも疑問に思うのではないだろうか。なぜ化石燃料への依存を続けるために、何十億ドルも注ぎ込むのだろう?

「石炭の使用をやめようというのは、気候変動の対策としては正しいスローガンです」とトンプソン氏は話す。「ですが、無惨に失敗するほかありません」

「非常に多くの化石燃料発電所、中でも中国で新設されたものが、これから数十年にわたって温室効果ガスを出し続けることは確実です。その対策が必要なのです」とトンプソン氏は説明する。(参考記事:「世界の発電所のCO2排出量を初算出」

 トンプソン氏は、「普通の人は、CCSは石炭に対して使う技術だと思っていますが、そうではありません」と指摘する。CCS技術は発電所が新設か否かを問わず、石炭以外の化石燃料にも使える。また、発電所以外に温室効果ガスを排出する工場などにも活用できる。「製鋼所を風車に置き換えることはできないのですから」とトンプソン氏。

 バウンダリーダム火力発電所は、別の炭素回収技術を使った石炭ガス化プラントを新たに建設するケンパーでの事業とは違い、数十年が経過した施設を改良したものだ。2012年に決定されたカナダの新しい規制基準を満たせないため、閉鎖されるはずだった。

「リスクを取ったのかって? もちろんです」と話すのは、サスクパワーのマーシュ氏だ。カナダの新規制基準が最終決定されるのを前に、同社はCCS導入を決めた。もう1つの選択肢は、石炭の使用をやめて天然ガスに移行するというものだった。マーシュ氏は、CCSなら新規制基準を満たせて、しかも将来的な天然ガス値上がりのリスクも避けられると確信できたという。(参考記事:「CO2回収貯留、収益化のきざし」

 バウンダリーダム火力発電所に関してサスクパワーが置かれていた状況は「特殊すぎる」と指摘するのは、米MIT(マサチューセッツ工科大学)エネルギー構想のシニアリサーチエンジニアで、CCSを研究するハワード・ヘルツォーク氏だ。「炭素回収技術が本格的に普及するには、各国が今よりも厳しく汚染削減を求めつつ、再生可能エネルギーに与えているのと同様の経済的な奨励策を提供する必要があります」

「全ては経済的判断の問題です。単純なことです」とヘルツォーク氏は言う。「今のところ、CCSを歓迎する市場はありません」。米国エネルギー省は炭素回収に対する巨額の税額控除を2016年の予算案に組み込んでおり、実現すればCCS事業に弾みがつくとヘルツォーク氏は見ているが、承認されるかどうかは不透明だ。

 一方、環境団体クリーンエア・タスクフォースのトンプソン氏は「CCSは今後数十年で大きな働きをする技術です」と期待する。「最初の15年では成果が見えないかもしれません。しかし、導入して正解だったと思える時が来るはずです」

文=Christina Nunez/訳=高野夏美

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