6.狩る
チームワークをより強く促したのは狩りだと主張したのは、人類学者シャーウッド・ウォッシュバーンとC.S.ランカスターだ。2人は1968年の論文で、「我々の知性、関心、感情、そして基本的な社会生活は、本質的にはすべて、狩りにうまく適応したという進化の産物だ」と述べた。例えばヒトの脳が大きいのは、いつどこで獲物を見つけるかという情報を多く蓄積するためだという。また、狩りは女性が採集をするという男女の役割分担にもつながったと言われる。だが、ここで疑問が出てくる。女性も大きな脳を持っているのはどうしてなのか?
7.食べ物とセックスを取引する
より端的に言うと、一夫一婦制だ。C・オーウェン・ラブジョイ氏が1981年に発表した学説によれば、人類進化の決定的な分岐点は、約600万年前に起こった一夫一婦制の開始だという。それまでは、どう猛なオスが他のオスを蹴散らして勝者となり、メスとの生殖を独占していた。しかし一夫一婦制の下でメスが好むのは、食料の調達がうまく、そばにいて子育てを手伝ってくれるオスだ。ラブジョイ氏いわく、我々の祖先が二足歩行を始めたのは、それによって両手が自由になり、より多くの食料をメスに届けられるから、とのことだ。(参考記事:「チンパンジー、食べ物とセックスを取引?」)
8.肉を(調理して)食べる
大きな脳は大量の栄養分を欲しがる。大脳皮質や小脳皮質などの灰白質が必要とするエネルギーは、実に筋肉の20倍だ。草食生活をしていては脳の発達はあり得なかったと一部の研究者は主張する。むしろ、人類の脳が進化したのはたった1度、タンパク質と脂肪の豊富な栄養源である肉を200~300万年前に食べ始めたときだという。また、人間に独自の行動である火を使った調理は、食物を消化しやすくする。人類学者リチャード・ランガム氏によれば、我々の祖先は火で調理を始めてから、肉をかみ切ったり潰したりするのに力を使う必要がなくなり、その分のエネルギーを脳に回せるようになった。その後も脳は発達を続け、自分の意志でビーガン(完全菜食主義者)を選ぶという判断を下せるまでになったのだという。(参考記事:「槍を使って狩りをするチンパンジー」)
9.炭水化物を(調理して)食べる
あるいは、人類の脳は炭水化物を溜め込むことで大きく発達できたのかもしれない。最近の論文によれば、私たちの祖先が調理法を発明すると、塊茎(ジャガイモなど)のようなデンプン質の植物が脳にとって優れた栄養源となり、しかも肉より容易に入手できた。唾液に含まれるアミラーゼという酵素は、炭水化物を分解して、脳に必要なグルコースという糖分へと変える。英ロンドン大学の進化遺伝学者マーク・G・トーマス氏は、人類はDNAの中にアミラーゼ遺伝子のコピーを多く持っていると指摘。この特徴は、塊茎状の摂取が人類の脳の爆発的な発達を後押ししたことを示唆するものだと記している。(参考記事:「古代都市の子孫は免疫系が進化?」)
10.二足歩行をする
人類進化の決定的な転機は、私たちの祖先が木から下り、直立して歩き始めたときだったのだろうか?「サバンナ起源説」の提唱者たちは、気候の変化がサバンナへの適応を促したと主張する。300万年前にアフリカの気候が乾燥し、森林が減少して草原に取って代わられた。これが、直立する霊長類に有利に働いた。立ち上がって背の高い草よりも上から辺りを見渡し、捕食者を見つけたり、食料と水源が遠く離れた広い範囲を効率的に移動したりできた。この説の問題点は、2009年、現在のエチオピアで、440万年前に生きていたラミダス猿人(アルディピテクス・ラミダス)の化石が見つかったのだ。この地域は当時、湿潤で森林に覆われていた。にもかかわらず、ラミダス猿人の「アルディ」は二足歩行をしていた。(参考記事:「最古の女性“アルディ”が変えた人類進化の道」)