太陽系をつくる実験をしたとしよう。生まれて間もない太陽系の内部の熱や気候、水などの成分をほんの少し変えてみる。それだけで、地球をはじめとする惑星は、現在とはまったく違った歴史をたどる可能性がある。
たとえば、生命は地球ではなく、金星で誕生していたかもしれないし、どちらの惑星にも存在しなかった可能性がある。これまで一般的に、地球に生命が誕生したのは、太陽からの距離と地球の質量が“ちょうど良かった”ために、生命にとって快適な気候がもたらされたのが原因だと考えられてきた。(参考記事:2013年7月号「太陽系 激動の過去」)
しかし、最近の研究で、快適な気候を作り出すのに別の要因が関わっていたらしいことが分かった。鍵を握るのは、惑星がたどってきた歴史だ。「どうやって現在の位置にとどまることになったのか? どのようにして誕生したのか? どのように発達してきたのか? それらを知ることが大切です」と、米ライス大学の惑星科学者エイドリアン・レナーディック氏は説明する。
カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学のマーク・ジェリネック氏は、「ネイチャー・ジオサイエンス」誌に論文を発表し、地球にとって大きな転機となったのは、隕石が激しく降り注いだ初期の頃であるとの見解を示した。隕石の衝突によって、熱を発生させる放射性元素が地表から剥がされたことで地球の温度が下がった。それと同時に、地球内部にあって、温度調節をしてくれるプレートテクトニクスの働きが活性化したのではないかという。これらにより、地球に快適な気候がもたらされたのかもしれない。
しかし、生命の生存を支える環境が永遠に続くとは限らない。
火星で発見された河川の跡や干上がった湖床は、この乾ききった惑星にかつて水が存在していたことを示唆している。ひょっとすると、その水の中に生物が生息していたとも考えられる。さらにレナーディック氏は、「金星にも、かなり長い期間にわたって生命が存在することのできる環境があった可能性があります」と話す。(参考記事:2013年7月号「探査車が見た火星」)
では、どうすれば生命を育む惑星はできるのか。最新の研究に基づいたレシピを紹介しよう。
“オーブン”の温度
地球のように多様な生物が誕生するには、その惑星が「ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)」と呼ばれる領域の中に存在している必要があると、科学者たちは長いこと考えてきた。このゾーンは恒星から遠すぎも近すぎもせず、液体の水が地表を流れるのにちょうど良い温度が保たれる。(参考記事:2014年7月号「地球外生命が見つかる日」)
「ある程度までは、そのことに異論を唱える専門家はいません」と、レナーディック氏。考えてみれば当然のことだ。高温の恒星に近すぎれば惑星は燃え尽きてしまうし、遠すぎれば凍りついてしまう。
しかし、実際はもっと複雑だ。例えば、恒星からどれだけ離れていればハビタブルゾーンなのかは、その恒星がどれほど熱いかによって変わってくる。
惑星の大きさも関係する。小さすぎれば、重力も小さくなるため惑星の大気が宇宙空間へ飛び散ってしまう。逆に大きすぎれば、大気が濃くなりすぎて、海王星や天王星のような氷の巨星になる可能性がある。
生命が存在可能な惑星を探そうと、NASAは2009年にケプラー宇宙望遠鏡を打ち上げた。この望遠鏡の成果を基に、惑星の半径が地球の1.5倍までなら生命は存在できるだろうと、カナダ、マギル大学の惑星科学者ニック・コーワン氏は言う。
ケプラー望遠鏡はこれまでに1030個の太陽系外惑星を発見した。そのうち、大きさも恒星からの距離も生命誕生にちょうど良い条件のものは一握りだが、「ケプラー452b」と名づけられた惑星が地球に最も似ていると考えられている。(参考記事:「地球に「最も似ている」太陽系外惑星を発見」、「NASAのケプラー衛星、複数の地球型惑星を発見」)
しかし、大きさや恒星からの距離がちょうど良いだけでは、生命が存在するとは限らない。レシピはもっと複雑なはずだと、多くの研究者が考えている。