ツアーガイドはなぜライオンに殺されたのか

どれほど手段を講じたとしても、野生動物の前で油断は禁物

2015.08.31
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死亡事故があったジンバブエ、ワンゲ国立公園の雄ライオン。ワンゲは「セシル」の縄張りでもあった。(Photograph by Images of Africa Photobank, Alamy)
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 ジンバブエのワンゲ国立公園で徒歩によるサファリツアー中、ライオンに襲われたガイドが死亡した。この国立公園は、先ごろ殺された有名なライオン「セシル」のかつての縄張りでもある。このガイドは、襲われたときにできることはすべてしたにもかかわらず、究極の代償を払うことになった、と専門家は語る。(参考記事:「殺されたライオン「セシル」が愛された理由」「【追悼】セシル・ザ・ライオン写真集」

 ガイドのクイン・スウェールズ氏(40)は、ワンゲ国立公園で6人のツアー客を引率中、ライオンの群れに遭遇した。一頭の雄ライオンが立ち上がり、近づいてくる。

「これまでも幾度となくやってきたように、クインはすぐさまツアー客にどうするか説明し、自分の後ろにいて動かないようにと指示を出しました」。ワンゲ国立公園のサファリツアーを主催する企業「キャンプ・ワンゲ」は、ガイドの死亡についてFacebookにこう声明を発表した。

 スウェールズ氏とツアー客が大声をあげたり、いわゆる「クマよけ爆竹」(銃声のような大きな音が出る道具)を鳴らしたりすると、雄ライオンは離れたように見えたが、ふいに引き返してきてスウェールズ氏に襲いかかった。同氏は、その場で息を引き取った。

「命を落としたガイドはおのれの仕事を全うしました。引率するツアー客と危険とのあいだに立ち、自分の身を盾にしたんですから」と、ナショナル ジオグラフィック協会の大型ネコ科動物保護プロジェクト「ビッグキャッツ・イニシアティブ」の責任者ルーク・ダラー氏はコメントした。

 ガイドの命を危険にさらすのが賢明なやりかたなのか、ワンゲ国立公園は見直す必要があるとダラー氏は言う。なにしろ、車の中からライオンを見学するという、より安全な選択肢もあったのだ。

 ただし、ダラー氏はこうも言っている。「サファリの徒歩ツアー自体は、たいていの場合きわめて安全だし、きちんと責任をもって行われています。サファリの徒歩ツアーを今後も広く続けるなら、大幅な見直しが必要だと言っているのではありません。そうではなく、安全は何をおいても最優先すべきだという認識を、今回のことをきっかけに生かしてほしいのです」

頂点にいる捕食者

 ダラー氏はさらに、雄ライオンの行動は捕食者として頂点に立つがゆえだという。

「ライオンの周囲にいる生物は、なんであろうと彼らの餌食となる可能性があり、人間だけが例外だと思うのは大きな間違いです」。ダラー氏は、6月に南アフリカ共和国でライオンが観光客を襲い死亡させた事件についてこう語る。(参考記事:「ライオンはなぜ観光客を殺したのか」

「大型のネコ科動物と共存しているサルの仲間たちは、最強の捕食者であるライオンとの関係で自分たちがどういうポジションにいるのか、正確に感じ取っているはずです」(参考記事:「ライオンはなぜ人を襲うのか?」

 ライオンなどの肉食動物が目の前にいる場で、こちらがうっかり気を抜くことが危険につながる、とダラー氏は言う。「私たちにはかぎ爪も大きな牙もないし、体も大きくありませんから」

王者に敬意を払う

 ダラー氏によると、毎年、ライオンに襲われる人の数は、数百人まではいかないとしても、数十人にのぼる。

 野生のライオンは、年を取ったり病気になったりすると、人間を襲うことがある。ふつうの獲物は捕まえられないとしても、たいていの場合、人間は捕まえやすいからだ。

「たとえばインパラの横に人間が立っているところにライオンがやってきて、何か食べようかなと思った場合、おそらくインパラは逃げおおせるでしょうが、人間は無理です」(参考記事:「大型ネコ科の特集7本まとめ」

 それでも、野生のライオンを見に行くこと自体を怖がる必要はないとダラー氏は言う。ただしライオンが人間を獲物として認識し、襲いかかってくる可能性があることを忘れてはならない。

「私たちはそれなりの理由があって、ライオンを『ジャングルの王者』と呼んでいるのです。そのことを忘れてはいけません。ライオンのありのままの姿と、彼らの習性に敬意を払うべきなのです」

文=Christine Dell'Amore、Mary Bates/訳=倉田真木

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