人類の低身長化の過程で新発見、ピグミーの研究で

共通の祖先からの遺伝ではなく、別々に進化した可能性が強まる

2015.07.31
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アフリカのピグミー集団の1つ、バカの人々。西アフリカのカメルーンで狩猟採集生活を送っている。(Photograph by Mattias Klum, National Geographic Creative)
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 ピグミーと呼ばれる小柄な人々の集団。彼らは平均的な体格で生まれるが、幼児期の早い段階で成長が遅くなることが、新たな研究で分かった。低身長の理由についてこれまで支配的だった「思春期の急成長が起こらないため」という定説に疑問を投げかける結果だ。

「ピグミー」は、世界各地の熱帯雨林に暮らす身長約150センチに満たない狩猟採集民の総称だ。この身長の低さは栄養不足の結果というだけではなく、遺伝によることがこれまでの研究で分かっている。だが、小柄という特徴をどのように獲得したのか、さらに、アフリカにいる複数のピグミー集団がどのように進化を遂げたのかは、よく分かっていなかった。(参考記事:「“ピグミー”の身体的特徴は遺伝子由来」

 オンライン科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に28日掲載された新たな研究結果は、東アフリカと西アフリカでピグミーの子どもたちの成長パターンが異なることを示しており、これら2集団がどのように進化したかを解き明かす手がかりになるかもしれない。フランス国立科学研究センター(CNRS)所属で、ナショナル ジオグラフィック協会の助成金を受けている論文の筆頭著者フェルナンド・ラミレス・ロツィ氏は、カメルーンの「バカ(Baka)」と呼ばれるピグミー集団の年齢、成長、出生率を8年にわたって追跡した。(参考記事:「めくるめく遊びの世界、ピグミーのバカの子どもたち」

年齢を知らない人々

 米ペンシルベニア大学教授のサラ・ティシュコフ氏は、「ピグミーに関して、このような研究はほとんど行われていませんでした」と話す。ティシュコフ氏もバカの人々を研究しているが、今回の研究には関わっていない。

 バカのように遊牧生活を営む狩猟採集集団は、研究が非常に難しいことで知られる。ロツィ氏によれば、彼らの村は熱帯雨林にある上、頻繁に移動するという。「ある年に一度村を訪れ、あるグループに会えたとします。6カ月後に再び同じ場所を訪ねると、その人々はもう移動しており、別の家族がいるのです」とロツィ氏。(参考記事:特集「戦火に揺れるピグミーの森」

 さらなる難点は「狩猟採集民族は一般に自分の年齢を知らない」ことだと話すのは、米ペンシルベニア州立大学の人類学者・遺伝学者であるジョージ・ペリー氏だ。カナダ、モントリオール大学の進化生物学者ルイス・バレイロ氏は、「年齢が分からなかったり、あるいは誤っている恐れがあれば、正確な成長曲線を描くのは非常に困難です」と指摘する。

 ロツィ氏らの研究チームは、近郊のカトリック伝道所の協力で人々の正確な年齢を知ることができた。ここの修道女たちが、1980年代後半から新生児の誕生日と体重を記録していたのだ。この情報に、年齢の判明した子どもと成人の身長・体重測定の結果を合わせ、バカの人々の出生から25歳までの成長曲線を描き出した。

 その結果、バカの赤ちゃんは比較対象としたフランスの赤ちゃんと同じ体重で生まれるが、生後3カ月から体重の増加が鈍り、以後は両者の差が決して埋まらないことが分かった。これは、少なくともバカの集団に関してこれまで支配的だった「ピグミーの人々が小柄なのは思春期の急成長が起こらないから」という説と矛盾する(ペリー氏は、「ピグミーにもはっきりした成長期がみられます」と話している)。

 一方、東アフリカのピグミー集団は成長パターンが異なる。ロツィ氏らのチームが比較に用いたこれまでの研究結果によれば、東アフリカのピグミーは出生時から小さく、成長してもずっと低身長にとどまる。2集団のこうした違いは、ピグミーの身長の低さは共通の祖先の特長によるものではなく、同じような環境に適応するため、それぞれ独自に進化したことを意味しうる。

進化は別々に起きた?

 アフリカに暮らすピグミーの人々は、そもそもは平均的な体格を持つ集団から約6万年前に分かれたとされる。それが、約2万年前に東アフリカと西アフリカの2つのグループに再び分かれた。

 これまでに、小さな体は熱帯雨林での生活に適応するためだという説がいくつか出されている。小柄なら体温を調節しやすく、植物が密生する森でも身軽に動け、食事の量が少なく済む、といった理由だ。生殖が通常より早く可能になるという説もある。

 別個の集団で成長パターンが異なることが分かり、ペリー氏やバレイロ氏らが2014年に発表した、「身長に関わる遺伝子の一部が東部のピグミーでは有利に働いたが、西部のピグミーではそれほど役に立たなかった」という研究結果がより重要さを増した。

 だが、東西アフリカを比較するロツィ氏らの研究からあまり多くの結論を引き出すべきではないとティシュコフ氏は注意を促す。ロツィ氏は、異なる研究者たちが集めた、方法も時期も異なるデータを比較しているからだ。「リンゴとオレンジを比較することはできません。同じ条件下のデータを全く同じ方法で比較する必要があるのです」とティシュコフ氏は語った。

 とはいえ今回の研究結果により、世界各地に散らばる集団が同じように特徴的な身長に進化したことをめぐるパズルに新たなピースが加わったことは間違いない。アフリカのピグミーに関する謎はまだ多いことから、「今後の探究の土台にもなる」とティシュコフ氏は評価する。「何であれ、極端な現象に人は関心を持ちますから」

文=Rachel A. Becker/訳=高野夏美

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