発光するグラフェン。米国と韓国の研究者チームによる発見を表現したイラスト。(ILLUSTRATION FROM YOUNG DUCK KIM, COLUMBIA ENGINEERING)
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 電球がまたひとつ大きな進化を遂げた。厚みが炭素原子1個分で、最高レベルの強度を持つシート状の物質「グラフェン」を使った光源が誕生したのだ。

 純粋な炭素からなる物質から、柔軟性が高く透明な光源を作ることに成功したのはこれが初。将来的には半導体チップの電子回路の代わりに光を利用する技術の開発も期待されており、これが実現すればコンピューターも大きく変貌するかもしれない。

「われわれが作りだしたのはいわば世界でもっとも薄い電球です」と、論文の共著者である米コロンビア大学工学教授のジェームズ・ホーン氏は語る。今回の成果は、韓国の研究者と米コロンビア大学のチームによって、6月15日に学術誌『Nature Nanotechnology』のウェブサイトに発表された。

 日進月歩の電球の世界において、今回の発明はひときわ注目に値する。トーマス・エジソンが百年以上前に発明した白熱電球は近年、人々の生活から姿を消しつつあり、市場の需要は、エネルギー効率がはるかにすぐれた電球形蛍光灯やLED(発光ダイオード)に移っている。(参考記事:「ノーベル物理学賞、青色LEDの革命」

 企業も新製品を続々と投入している。米ファイナリー・ライト・バルブ社は、電磁誘導の技術を応用して、エネルギー効率が高く暖かみのある光を放つ「アカンデセント」という電球を開発した。また、米アルキル社は、バックライトが不要なポータブル有機EL照明を販売している。

 さらに今年後半には、従来のLEDよりも寿命が長くエネルギー消費の少ない、グラフェンでコーティングされたLEDが発売される。これは英国のマンチェスター大学が開発したものだ。この製品はしかし、純粋な意味でのグラフェン電球ではない。

「こうした製品では、周辺部の熱を逃がしやすくするためにグラフェンを利用しています。われわれの研究が実現したのは、グラフェン自体からの発光です」と言うのは、今回の研究のリーダーを務めたコロンビア大学の博士研究員キム・ヤンダック氏だ。(参考記事:「アメリカで激化するLED電球開発競争」

 グラフェンが発光することにキム氏が気づいたのは4年前のことだ。非常に軽量かつ鋼よりも固いグラフェンという物質は2004年に発見されたばかりだった。キム氏には、発光が起こる理由がまるでわからなかったという。

 彼のチームは、グラフェンの小片を含むフィラメントに電流を流すと、可視光を生み出すのに十分な2500℃以上の高温になることを発見した。しかも、フィラメントに接続された金属の電極は高温になっても溶けなかった。グラフェンは高温になると熱をほとんど伝えないため、中央のごく狭い範囲の外に高熱が伝わらないのだ。対して、きわめて細い金属線を使うと、これほどの高温に耐えられない。

 彼らの研究には、エジソンが手がけた白熱灯開発との共通点がある。「エジソンは最初、電球のフィラメントに炭を用いていました。われわれもまた、同じ炭素という素材に戻ってきたわけです。ただし今回使っているグラフェンは、純粋な炭素からなり、原子1個分という究極の薄さですが」。論文の責任著者のひとりで、韓国ソウル大学校の物理・天文学教授のユン・ダニエル・パーク氏は述べる。(参考記事:「ノーベル賞を受賞しなかった10大発見」

「チームはこの技術の商品化を目指しており、5年以内にはグラフェンを使った柔軟性のある透明な光ディスプレイが登場するだろう」とキム氏は言う。

 また、インテルとIBMはすでにコンピューターのチップに光を組み込む難題に取り組んでいるという。みずからの研究を生かしたこの技術が、10年以内には商品化を達成するとキム氏は期待を寄せている。

文=Wendy Koch/訳=北村京子