冥王星の衛星ニクスの4年間の運動を2分のアニメーションにしたもの。自転が予測不可能な変化をしていることがわかる。(Video: NASA; ESA; M. Showalter, SETI Institute; G. Bacon, STScI)

 NASAのニューホライズンズ探査機が冥王星に最接近する7月14日まであと数週間。ハッブル宇宙望遠鏡による冥王星の観測データから、冥王星の衛星のうちニクス、ヒドラ、ケルベロス、ステュクスの4つが予測不能な奇妙な動きをしていることが明らかになり、6月4日付け『ネイチャー』誌に発表された。

「ニューホライズンズはすばらしく魅力的な系に入ろうとしているのです」と、論文を執筆した米SETI研究所のマーク・ショーウォルター氏は言う。

不規則にごろごろ転がっていた

 ショーウォルター氏はハッブル宇宙望遠鏡の膨大な量の画像を調べ、冥王星の小さな衛星の中では比較的大きいニクスとヒドラが、軌道運動しながら暗くなったり明るくなったりする様子を眺めていた。そして、新しいコンピューター・シミュレーションの力を借りて、細長い形をした2つの衛星がカオス的に自転していることを発見した。コマのように軸のまわりを回転するのではなく、不規則にごろごろ転がっていたのだ。

「あなたがニクスやヒドラの表面に住んでいたら、太陽が翌日のぼってくるかどうかもわからないでしょう」とショーウォルター氏は言う。「もしかすると、西から昇って北に沈むかもしれません」

 太陽系の衛星の中でこれと同じような奇妙なダンスを踊っているのは、土星のヒペリオンしかない。冥王星の衛星のニクスとヒドラの自転が不規則なのは、冥王星と異常に大きい衛星カロンが連星系を作っていて、小さな衛星がそのまわりを公転しているからである。つまり、冥王星とカロンが重力のダンベルを形成し、ほかの衛星をランダムに押したり引いたりしているのだ。ショーウォルター氏は、ステュクスとケルベロスも連星系のまわりを公転しているので、同じように不規則に自転しているかもしれないと予想している。

黒い異端児ケルベロス

 ハッブル宇宙望遠鏡のデータを見ると、冥王星の衛星にはほかにも奇妙な点があるようだ。ニクスとヒドラの間にあるケルベロスは、おそらく直径が30km程度しかない非常に小さい衛星で、氷に覆われた仲間の衛星に比べるとかなり黒っぽい色をしている。「ケルベロスは、2個の汚れた雪玉の間を軌道運動する練炭のような天体なのです」と彼は言う。

 冥王星系の形成について考えるとき、衛星の組成の違いは大きな問題となる。

 冥王星系は数十億年前、冥王星のもとになった天体とカロンのもとになった天体が衝突することにより誕生したと考えられている。2つの天体は砕け散ることなくお互いのまわりを軌道運動するようになり、衝突で生成した破片から小さな衛星ができたという。それら衛星が互いにそこそこ似ていればよいが、似ていない衛星があるなら、このシナリオを受け入れるのは困難だ。

冥王星とその衛星の想像図。手前に描かれているのが冥王星。既知の5つの衛星のうち圧倒的に大きいカロンは冥王星と連星系を形成していて、その周囲を4つの小さな衛星が公転している。(PHOTOGRAPH BY NASA/JOHNS HOPKINS UNIVERSITY APPLIED PHYSICS LABORATORY/SOUTHWEST RESEARCH INSTITUTE)
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 アリゾナ大学のアンドリュー・ユーディン氏は、「どんなことが起これば、ほかと違った衛星が1つだけできるのでしょうか? 太陽系の個々の惑星には大きな違いがありますが、これは、太陽からの距離によって環境が大きく違っているからです。これに比べると冥王星系の環境ははるかに一様なので、毛色の違う衛星が形成される理由がよく分からないのです」と解説する。

 冥王星系の奇妙さが次々と明らかになってきている今、黒い色をした不規則な衛星がほかにも見つかる可能性はあるだろうか?ショーウォルターとメリーランド大学のダグ・ハミルトン氏は、ステュクス、ニクス、ヒドラの3つの衛星が重力共鳴によって結びつき、冥王星-カロン系に固定されて軌道運動していることを突き止めた。その結びつきは非常に強く、カオス的な自転も考慮すると、未知の衛星が隠れて安定していられる場所は多くはないだろうという。

 けれども、サウスウェスト研究所のサイモン・ポーター氏とニューホライズンズの主任研究員であるアラン・スターン氏は、5月末に、未知の衛星が存在している可能性のある領域を提案する論文をarXivに投稿している。1つ目は最も内側にあるステュクスの軌道のすぐ内側、2つ目はニクスとケルベロスの間の軌道、3つ目は小さな衛星と同じ軌道の中である。

「これまでに得られたデータを見るかぎり、冥王星系に非常に大きい衛星が隠れていることはないようです」とポーターは言う。「あるとしても非常に小さく、ハッブル宇宙望遠鏡では見えないでしょう」

 ニューホライズンズが猛スピードで冥王星に近づいていく今になって隠れた衛星を探している理由は、こうした衛星から飛んでくるダストへの衝突を回避する必要があるからだ。ニューホライズンズにとっては米粒ほどの破片も大きな脅威となるが、現時点では目につく障害物はないようだ。


【動画】太陽系はどのように誕生したのか?

◆ナショナル ジオグラフィック日本版2015年7月号で冥王星の特集を掲載します(6月30日ごろ発売)

文=Nadia Drake/訳=三枝小夜子