北極点遠征が風前のともしび、温暖化の影響で

徒歩での到達が困難に

2015.05.29
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 北極点への遠征を6度成功させてきたカナダ人北極冒険家リチャード・ウェバー氏も、氷が薄くなっていることは新たな危険をもたらすだろうと懸念する。「野営するのに適した多年氷がないと、薄い氷の上にテントを張らなければならなくなり、危険です。氷が夜中に移動する可能性もあります。テントの下の氷にひびが入ってしまえば、もうなす術がありません」

 多年氷が解け始めたことで、北極海の海氷の全体的な流れにも影響が出ている。通常、海氷はカナダに向かって南へ移動する傾向にあるが、最近の氷は薄く、砕けて小さな破片となり、風の影響を受けやすくなっている。そうなると自分の乗っている氷がどの方向へ流されるか見当がつかず、コースを大きく外れてしまうことがある。ただでさえ時間に制約のある困難な旅が、余計に長期化してしまう恐れもある。

 海氷の動きは今に始まったことではないが、今はそれが以前よりもずっと不規則で劇的になってきていると、NASAの上級科学研究員ロン・クウォク氏は言う。「20~30年前と比べて氷の動きは速くなっています。薄い氷はスピードも出るし、風の影響を受けやすいのです」

 2007年の遠征で、ウェバー氏は1日あたり10~12時間歩いたはずだが、氷が南の方向へ移動していたため、実質的には同じ場所でずっと足踏みをしていたようなものだったという。「それまでと比べてはるかに厳しい旅でした」

ナショナル ジオグラフィック協会の支援を受けたロバート・E・ピアリ氏の北極探検隊。1909年4月6日、旗を掲揚した氷丘の前で撮影。(PHOTOGRAPH BY ROBERT E. PEARY, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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北極点までのチャーター便が廃止

 北極点遠征をますます困難にしているもう一つの大きな問題は、小型飛行機による支援が受けられなくなってしまったことだろう。北極点へ唯一エアチャーター便を飛ばしていたケン・ボレック・エア社が昨年11月、経済的な問題を理由に、個人の北極点遠征の支援を今年で打ち切ると発表したのだ。

 カナダのカルガリーを拠点とする同社は、1970年に北極圏での石油開発を支援するために運行を開始した。その後、北極点遠征の支援も行うようになり、雪や氷の上で発着できる小型機を使って、遠征隊をグリーンランド北東のワード・ハント島まで送り届けていた。遠征隊はそこから北極点を目指す。到達後は現地での出迎えサービスも行い、時には移動中の遠征隊のために補給物資を空中投下したり、緊急時の救助活動も行った。

 ケン・ボレック・エアで10年間パイロットとして勤務しているウォリー・ダブチャック氏は、氷の状態が変化していることは認めているものの、それが原因で北極点へのフライトを止めたのではないとしている。「確かに氷の状態は変化していますが、だからと言って北米から北極点への飛行がひどく困難になったというわけではありません。ただ、現地で行う仕事がほとんどなくなってしまったというだけのことです」

 飛行サービスが利用できなくなったことで、北極点遠征を考えていた人たちは計画の見直しを迫られている。「補給物資を今後どうするかが問題です」と、ラーセン氏。それに、ワード・ハント島までの移動手段も、出発地点へ立つことすらできない。

 近い将来、ボートによる初の北極点到達に挑む人間が現れるかもしれない。(参考記事:「ナショジオ写真家、植村直己の北極点遠征を語る」

文=Kelley McMillan/訳=ルーバー荒井ハンナ

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