世界最古の石器発見、330万年前に猿人が作る?

ヒト(ホモ)属登場以前では初。ケニアのトゥルカナ湖西岸

2015.05.22
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330万年前の石器が発見された現場で発掘作業をする考古学者、ソニア・アルマン氏。この発見により、石器作りの起源が70万年以上早まった。(PHOTOGRAPH BY JASON LEWIS)
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 2011年7月9日、ケニアのトゥルカナ湖西岸の干上がった河床で車を走らせていたソニア・アルマン氏は、本来右折すべきところを左折してしまった。

「あれは私の責任です」と言うのは、米ラトガース大学の古人類学者、ジェイソン・ルイス氏だ。ルイス氏は、地質図とGPSを頼りにナビゲーターを務めていた。アルマン氏は米ストーニーブルック大学の考古学者。2人は、数百万年前の堆積物から人類の祖先による行動の痕跡を探すチームの陣頭指揮を執っていた。

 このミスディレクションが大きな収穫をもたらした。これまで最古とされていたものよりも、さらに70万年ほど古い石器が見つかったのだ。この発見は、5月21日付「Nature」に発表された。

 袋小路に入ったチームは、そのまま引き返さずに、車を降りて調査を開始した。それが思わぬ発見の始まりになる。日陰のない、強風の吹きつける荒れ地だった。1時間後、アルマン氏のトランシーバーが鳴る。目の利く現地人、サミー・ロコロディ氏が、前方の丘に興味深い石があると言うのだ。

 砂や土の地表に、砕かれた大きな石が並んでいた。熟練の考古学者の目には、意図的に砕かれたものに映った。粉砕された石の大半は地表に出ていたが、そのうちの3つは部分的に埋まっていたことから、堆積物が侵食されて顔を出したものであることが示唆された。つまりその下には、さらなる埋蔵物が眠っているかもしれない。

 当時知られていた最古の石器は、エチオピアのゴナと呼ばれる遺跡で発見された、260万年前の石器だった。タンザニアのオルドバイ渓谷で初めて発見されたことから、オルドワン石器と名付けられている。しかし、アルマン氏とルイス氏を含む多くの研究者が、オルドワン技術は人類の祖先が初めて作った石器にしては、あまりにも注意深く作られていると考えていた。つまり、まだ発見されていない、もっと原始的な技術があるはずだと。

 石器が見つかった堆積物の年代を特定するには、1年以上が必要だった。その間、同チームはナショナル ジオグラフィックの資金を受け、「ロメクウィ(Lomekwi)3」と名付けられたその遺跡の調査に再び向かった。チームは150個近くの埋蔵物と、30個以上の動物の化石を収集した。しかし、大発見だと判明したのは発掘現場ではなく、ナイロビの国立博物館だった。アルマン氏が、地表にあった石のかけらと埋蔵物のひとつが、ジグソーパズルのピースのようにぴったり重なり合ったのだ。これにより、地表で発見されたものと堆積物の間の関係が確認された。

 2013年末には、埋蔵物の年代測定が完了。堆積物と石器は、330万年前のものであると特定された。つまり、ゴナのオルドワン石器よりも、およそ75万年近くも古い。ロメクウィ3の石器は粗雑な作りのため、我々の祖先の石器使用における大きな変化――チンパンジーのように木の実を叩きつける使用法から、意図的に石の形を変えて鋭利にする「道具作り」への変化――を表している可能性がある。

トゥルカナ湖西岸のロメクウィ3で発見されたおよそ150個の石器のひとつ。人類の祖先によって意図的に粉砕された形跡がはっきりと見られる。(PHOTOGRAPH BY SONIA HARMAND, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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 アリゾナ州立大学の考古学者、カーティス・マレアン氏は言う。「これがオルドワンより古いことはよくわかります。これまで皆が探していた技術とは、明らかに見た目が違います。そのせいで誰にも発見されなかったのでしょう。皆、心に違うイメージを抱きながら、調査を行っていたのです」

 道具作りは、脳の大きいヒト属、具体的にはホモ・ハビリス(「器用なヒト」という意味で、「ハンディマン」の異名を持つ)が始まりであると考えられていた。ホモ・ハビリスの骨が、オルドワン石器の近くで見つかっているためである。しかし、ロメクウィ3での発見により、道具を最初に作り始めたのが既知のヒト属という可能性はほぼ否定された。なぜなら、最古のヒト属として知られている化石は、280万年前のものにすぎないのだ。

「ホモ・ハビリスが最初の『ハンディマン』であることは、ほぼ教科書的な知識でした。今回の発見で、300万年前以前から、すでにハンディマンとハンディウーマンがいたことが明らかになりました」と、カリフォルニア科学アカデミーの古人類学者ゼラセナイ・アレムサゲド氏は言う。

 では、誰が初めて道具を作ったのか。ひとつの可能性は、まさにその当時東アフリカに生息していた、「ルーシー」に代表されるアウストラロピテクス・アファレンシスだ。とりわけ重要なのは、エチオピアのディキカで発見された化石である。ディキカの化石が見つかった場所は、340万年前、石器によって付けられた傷を持つとされる動物の骨が出た場所から180mしか離れていない。(参考記事:「初期人類の少女の化石発見」

ロメクウィ3の写真。道を間違えたチームは、乾燥した河床を通ってたどり着いた。(PHOTOGRAPH BY SONIA HARMAND, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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 もうひとつ、さらに魅力的な候補がある。それは、何かと議論の多いケニアントロプス・プラティオプスだ(アウストラロピテクス・アファレンシスなどのアウストラロピテクス類と別の属であることを認めていない科学者もいる)。ケニアントロプス・プラティオプスのオリジナルの標本である頭蓋骨は、ロメクウィ3から1.6km圏内で見つかっている。また、同種のものと考えられる破片は、もっと近くで発見されている。

 どちらもヒト亜科に分類されるが、ヒト属ではない。しかし、彼らが道具を作っていたとしても、それほどの驚きはないだろう。

 石器時代研究所のニック・トス氏はかつて、ナショナル ジオグラフィックにこう語っている。「(アウストラロピテクス類は)それだけの認識能力を持っていたと思います。それほど手は器用でなかったものの、石を薄くすることは問題なくできたのではないでしょうか」(参考記事:「最初に道具を使った人類はアウストラロピテクス」

 しかし、ロメクウィ3で発見された埋蔵物の年代を、すべての科学者が認めているわけではない。アウストラロピテクス・アファレンシスの分析で重要な役割を果たしたカリフォルニア大学バークレー校の古人類学者、ティム・ホワイト氏は、アルマン氏のチームが堆積物の年代を特定する際、同地域の複雑な地形を入念に考慮したかどうか、疑問を呈している。特に、地表にあった石器の年代が疑わしいと言う。「それらがいつ作られたものでもおかしくありません。通りがかりの遊牧民が、数年前に作ったものかもしれない」

 トゥルカナ流域の地質学の権威であるユタ大学の地質学者、フランク・ブラウン氏は、年代測定に問題はないと話す。

「河床の年代についての懸念はありません」。大きな岩の一部が堆積物に埋もれていたことから、「それが埋蔵物であるなら、330万年前の石器であると考えられます」

 しかし、ロメクウィ3の石器の大きさに困惑している科学者もいる。13kgを超えるものもあり、典型的なオルドワン石器よりも桁違いに大きいのだ。ジョージ・ワシントン大学の考古学者、デビッド・ブラウン氏によると、オルドワン石器は骨から肉を切り落とすのに使われていたと考えられているが、ロメクウィ 3の石器が同じ目的で使われていたとは考えにくい。それが、私たちよりも器用でない生き物によって使われていたとすればなおさらだ。

「こんな大きな石器を使って何をしていたかを知るのは至難の業ですし、私にとってもまだ不可解です」

文=Nadia Drake/訳=堀込泰三

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