法に反発した人生

 アイダホ州にある世界唯一の公式ベースジャンプ・スクール『スネークリバーBASEアカデミー』のオーナーであるトム・アイエロ氏は、ベースジャンプの歴史が常に反社会的行為の繰り返しだったと語る。

「米国では、ベースジャンプが発祥からそもそも違法行為でした。私のジャンプ仲間たちも、今ではほとんど止めてしまいましたが、かつては違法な場所で日が暮れてからジャンプしていました。ビルやアンテナの上、それに国立公園へこっそり忍び込んだりしたものです」

 こうした過激なスポーツを取り締まる国立公園の法律に対して、最も強い批判を行っていたのは、恐らくポッターだろう。

2011年、ポッターはカリフォルニアを象徴するヨセミテ滝の頭上、426メートルの高さを、激しい水しぶきと強い風を受けながらハイライニングで渡った。特集「ヨセミテ 巨岩の絶壁に挑む」より

「基本的自由の問題なのです」。事故が起きるわずか数日前の5月12日に、筆者のインタビューに応じたポッターはそう語っていた。「環境を破壊しない範囲で自然の中を移動する行為は、取り締まられるべきではありません」

 その個人の自由を行使し、法に反発する態度が、彼の生き方を決めたのかもしれない。

 ポッターがクライミングを始めたのは1988年、16歳の時だった。軍人の家庭に育った彼は何の装備も持たずに、ニューハンプシャー州ニューボストンの自宅近くにあった陸軍管轄下のジョー・イングリッシュ・ヒルに不法侵入し、高さ388メートルの山で人生初のフリーソロ(ロープも安全装備もないロッククライミング)をたった1人で、しかも裸足で成し遂げた。

 その後、進学したニューハンプシャー大学を3学期で中退し、1990年代はロッククライミングをしながら各地を放浪して回った。

 塩味のクラッカーをかじり、ほら穴で眠り、ヨセミテ国立公園の2週間というキャンプ滞在期限を越えてしまうと、レンジャーに放り出されないよう身を隠しながらの生活を続けた。

 どこへ行くにも裸足で歩き、岩を登るときでさえそのスタイルを崩さない。しばしば謎めいた話しぶりで、自分の行うロッククライミング、ハイライニング、ウイングスーツフライングを「アート」と呼んでいた。いつも陰鬱な雰囲気をまとっていることから、「ミーン・ディーン(不機嫌ディーン)」、そしてしまいには「ダーク・ウィザード(闇の魔法使い)」と呼ばれていた。

「犬を絶対においていくな!」を信条とするポッターはしばしば大の親友であるウィスパーを冒険に伴った。ドキュメンタリー映画「When Dogs Fly」では、ウィスパーと一緒にエル・キャピタンへ登り、ウイングスーツでベースジャンプした様子が記録されている。(PHOTOGRAPH BY JIMMY CHIN, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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闇のアートへの挑戦

 転落死が最大の恐怖だとポッターは語っていた。しかし、その恐怖に直面することが、フリーソロクライミングの世界へ飛び込むきっかけだったという。そして、同じ思いが後にウイングスーツフライングへと彼を突き動かした。

 2000年代半ばには、ポッターはプロのクライマーとしての成功を手にし、憧れのヨセミテ渓谷近郊ヨセミテ・ウェストに12ヘクタールの土地付き一軒家を購入した。このヨセミテ公園で22年間、ポッターは巨大な花こう岩として名高い岩壁を登り、限界を奥へ奥へと押し広げてきた。

 過去13年間で、ポッターはクライミング、ランニング、フライングを組み合わせたハイブリッド「スポーツ」を編み出したが、中にはスポーツと呼べるのかさえ怪しいものもある。あまりに技術的で危険で難しすぎるため、他に誰ひとりとしてやろうとするものがいないのだ。

ポッターの編み出した「スピードソロ」と呼ばれるクライミング法は、1人で行う命綱なしのフリーソロだ。ただし、最も困難な場所だけはロープと道具を使用する。最低限の安全を確保しつつ、クライミングの速度を格段に上げるハイブリッド方式により、ポッターはエル・キャピタン(写真)などの巨大な岩壁のクライミングに成功し、いくつかの記録を打ち立てた。(PHOTOGRAPH BY JIMMY CHIN)
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 ウイングスーツベースの限界への挑戦も続けた。2009年、ウイングスーツベースジャンプの滞空時間でポッターは世界記録を樹立した。スイスアルプスの北側アイガーから飛び降りたポッターは、2分50秒飛行し、ナショナル ジオグラフィックのアドベンチャラー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。

 死亡する数週間前から、ポッターは新しいパラグライダーの装具をテストしていた。ハーネスも含めてわずか1.3キロの重さは、ウェストポーチに収納できるほどのコンパクトさだ。この最新技術と自分の高度な飛行技術を、パラシュート下降が違法ではない世界の各地で試してみたい。ポッターはそう語っていた。

「クライミング、フライング、ハイライニング。自分にとってのこの3つのアートを実践できること、山や巨大な岩壁を高速で移動するという、ただそれだけのこと、その美しさを経験できること。これ以上の喜びはありません」

文=Andrew Bisharat/訳=ルーバー荒井ハンナ