17世紀に沈没したスペイン商船、積荷ごと発見

植民地時代の交易を物語る、パナマ沖

2015.05.15
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パナマ沖で見つかった17世紀のスペインの沈没船に残った木箱を調査するダイバー。(Photograph by Jonathan Kingston, National Geographic Creative)
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 2011年、実在したカリブの海賊を研究していた考古学者のグループが、謎めいた沈没船を発見した。その後の調査を経て謎が解き明かされ、その正体が明らかになった。

 1681年、スペインの商船エンカルナシオン(Encarnacíon)号は、パナマのカリブ海側、チャグレス川河口近くで嵐に遭い、沈没した。メキシコのベラクルスで造られたこの貨物船は、17世紀のスペイン経済の生命線、ティエラ・フィルメ商船隊の船だった。

 水深12メートルに満たない海底に沈んでいたにもかかわらず、 エンカルナシオン号は略奪を逃れ、また海底に埋まっていたため船体の船底側が無傷で、驚くほど良好な状態をとどめていた。

「エンカルナシオン号は、植民地時代に世界が大きな変化を迎えた様子を垣間見ることができる貴重な遺物です」と、米テキサスA&M大学の海洋考古学者フィリぺ・カストロ氏は述べる。「資本主義や帝国主義、合理主義が誕生し、芸術作品を買い文学を消費する中産階級が台頭したのはこの時代です」

 当時、メキシコとペルーの金鉱や銀鉱はスペイン王室の野心の対象となり、財源となった。 新大陸からヨーロッパへ財宝を輸送するため、スペインの植民者らは商船隊を編成し、武装したガレオン船や軍艦がこれを護衛したと、テキサス州立大学の水中考古学者フリッツ・ハンゼルマン氏は説明する。

 財宝をスペインへ運んだ後、商船隊は今度はヨーロッパの物品を積み、それを売りながら各地のスペイン植民地を回った。

 当時スペインにはティエラ・フィルメとニュー・スペインという二つの主要な商船隊があり、それぞれ中南米とメキシコを回っていた。「これらの船はスペイン植民地の要だったのです」とエンカルナシオン号研究チームのメンバーであるハンゼルマン氏は述べる。(参考記事:「南仏で発見 古代ローマの沈没船」

海底からよみがえる当時の商船

 今回の研究には参加していないが、海洋考古学者のジェニファー・マッキノン氏によると、南北アメリカでこれまでに発見されたスペインの沈没船はエンカルナシオン号を含め約16隻あるという。しかし、その大半はかなり略奪された状態で見つかり、かろうじて残った積荷も海中のバクテリアやフナクイムシに食べられてしまっていた。「したがって、17世紀の沈没船についてはほとんど何もわかっていないのです」

パナマ沖で水中約10メートルの深さに沈むエンカルナシオン号の船体を写したモザイク画像。(Photograph by Jonathan Kingston, National Geographic Creative)
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 積荷の大部分が残り、船体の一部が無傷の沈没船が発見されたことで、多くの新事実が明らかになる可能性がある。「数百年前に造られた船の設計図はありません。 エンカルナシオン号の船体の調査から、当時の船がどのように造られたのか、手がかりが得られました」 とハンゼルマン氏は述べた。

 ハンゼルマン氏の同僚の海洋考古学者、クリス・ホレル氏によると、最初の調査で、エンカルナシオン号には一種の永久バラスト(底荷)であるグラネルと呼ばれる素材が使われていることがわかった。グラネルとは「砂、石灰および小石でできたセメント」で、船体を薄いベニヤ板で覆う際に使われたという。

 グラネルは船を安定させ、また、新大陸の広範囲で建材としても使われていたと研究者らは考えている。ホレル氏によると、グラネルが新大陸で発明されたのか、あるいはヨーロッパからもたらされたのかはまだ明らかではないが、今後の研究の中で調査していくという。

偶然の発見

 ハンゼルマン氏らはエンカルナシオン号の発見を目指していたわけではない。研究チームが探していたのは、英国の私掠船と、全盛期には36隻の船と1000人を超える船員を率いた、悪名高き伝説の海賊、ヘンリー・モーガンの船だった。

 エンカルナシオン号が沈没する11年前の1670年、モーガンがパナマシティへ略奪に向かっていたとき、嵐で船団の5隻がチャグレス川の河口に沈んだ。 ハンゼルマン氏のチームはこの沈没船の捜索中、偶然エンカルナシオン号を発見した。(参考記事:「タイタニック号 沈没の真実」

エンカルナシオン号内から見つかった封印鉛 。通常、 輸送時に布束をまとめるのに使われた。(Photograph by Jonathan Kingston, National Geographic Creative)
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 磁気の異常を検知するセンサーの警告で、研究者らは河口から約1キロメートルの地点に金属製の物体があることに気づいた。調査に向かったダイバーが物体は積荷を載せた沈没船であると報告したことから、モーガンの船ではないと推測された。「略奪に向かう海賊船の船倉が積荷で一杯なはずがありません」とハンゼルマン氏は話す。

 さらに調査を進めたところ、商船であることが判明した。「私掠船が狙ったのはこのような船です」と同氏は説明する。

 ホレル氏によると、エンカルナシオン号は金貨や銀杯のような高価な品は積んでいなかったが、中から発見された日常品は、当時の海賊にとっても、現代の考古学者にとっても貴重な品だ。

文=Jane J. Lee/訳=キーツマン智香

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