カクレガニ、貝をくすぐって「夜ばい」

交尾相手と出会うため最長4時間の奮闘

2015.05.13
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ニュージーランドにすむ雄のカクレガニは、雌を見つけるために貝をくすぐる。(Photograph by Dr. Richard Taylor)
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 カクレガニという小型のカニは、交尾相手にたどり着くために貝を「くすぐる」ことが、最新の研究によってわかった。

 このカニは貝の中に1匹でかくれて暮らす習性があり、どうやって交尾相手を見つけるのかは長い間謎とされていた。(参考記事:「交尾の際に鋭い矢を突き刺すカタツムリ」

 その秘密を、ニュージーランド、オークランド大学の研究者チームがついに解き明かした。彼らは研究室に赤外線カメラを設置し、雄のカクレガニ(学名 Nepinnotheres novaezelandiae)がすみかであるミドリイガイから出てきて、雌を探しに行く様子をとらえた。

Video courtesy: Oliver Trottier

 学術誌「Parasite」に先日掲載された論文によると、雄のカニは未来の交尾相手が入っている貝を(おそらくは放出される化学物質を手がかりに)見つけ出すと、二枚貝の縁の隙間を最長4時間もの間くすぐり続けて、貝の中に入り込んだという。

 甲殻類でこうした行動が観察されたのは初めて。論文の共同執筆者オリバー・トロティア氏によると、くすぐるという行為がなぜ効果的なのかはよくわかっていないのだそうだ。

くすぐるのは何のため?

 雄のカニはおそらく、くすぐることで貝を弛緩させるか鈍感にさせて、突然口を閉じた貝に押しつぶされることがないようにしていると考えられる。雄が「(貝の)同じ場所をしびれるほどくすぐり続ける」ことにより、貝に感付かれずに中に入り込めるのだろうとトロティア氏は言う。

 そう考えると、雄のカニが夜間に行動することにもある程度説明がつく。明確な理由はわかっていないが、プランクトンをえさにするミドリイガイは、昼に比べて夜の方が反応が鈍くなる。カニが「(貝に)押しつぶされる事例は昼夜関係なく起こりますが、貝が非常に敏感になっている昼間の方が、その数はずっと多いのです」

 しかも明るいうちに安全なすみかを離れてしまうと、小さなカニは捕食者に簡単に捕まってしまうだろう。

 チリのカトリカ・デル・ノルテ大学の海洋生物学者マーティン・シール氏によると、カクレガニの交尾はこれまで謎で、雄の体が雌より小さく薄いことなどから、おそらく雄が雌を探し出すのだろうと考えられていたという。

「しかしその現場を実際にとらえてみせたのは、今回の研究が初めてです。彼らの調査対象はニュージーランドのカクレガニでしたが、おそらく世界中のカクレガニが同じようなことをしているのでしょう」

 カクレガニの仲間にはホヤやウニなどに寄生しているものもいるが、そのどれもが交尾相手の元へたどり着くために同様の苦難を乗り越えている。ニュージーランドのカクレガニの雄の数は、全成体の5分の1以下と推定されるが(交尾にともなうリスクを考えれば当然の数字だろう)、雄は雌を実にうまく見つけ出し、受精を成功させている。

 雌の入っている貝を雄の上流に置く実験の結果から、雄はどうやらフェロモンを頼りに雌を発見しているのではないかと考えられる。(参考記事:「フェロモンたっぷりの糸でやる気のないオスを“口説く”メスグモ」

 カクレガニがフェロモンを使っているかどうかはまだ証明されたわけではないが(雄が別の化学物質に反応している可能性もある)、イセエビやヤドカリなどの海洋性甲殻類では、フェロモンの使用が確認されているという。

カクレガニは厄介者?

 もし彼らが本当にフェロモンを使っているのであれば、合成した雌の匂いを使って罠に誘い込むことができるかもしれない。これは貝の養殖場で役立つ技術になるとトロティアは言う。ニュージーランドで養殖されているミドリイガイにとって、カクレガニは大きな被害をもたらす害敵なのだ。

 貝に寄生するカニは、宿主の食物をかすめとってその成長を妨げてしまう。養殖場によっては貝全体の60%がカニに寄生されているという。(参考記事:「世にも恐ろしい、心を操る寄生体」

 とはいえ、誰もがカクレガニを嫌っているわけではない。チリでは食卓に出されたウニからカクレガニが見つかるのは幸運の印とされているそうだ。

文=James Owen/訳=北村京子

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