米国の小魚、息を5時間止められる

砂漠の温水で生き延びるための苦渋の選択

2015.04.07
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パプフィッシュは高温の環境で身を守る方法を発達させてきた。無酸素で活動する能力は並外れているが、代償も伴う。(Photograph by Joel Sartore, National Geographic Creative)
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 息を止めることにかけて、この魚に勝てる生き物はいない。米国カリフォルニア州、デスバレー近郊の温水にすむ小さな魚、デザート・パプフィッシュ(学名:Cyprinodon macularius)は、最長で連続5時間も酸素をほとんど取り込まずに生きていられることが、新たな研究で明らかになった。

 砂漠にすむパプフィッシュがこの驚異的な能力を発達させたのは、激変する環境で生き抜くためという。ネバダ大学のフランク・ファン・ブリューケレン氏とスタンリー・ヒルヤード氏が、米国生理学会の実験生物学大会(Experimental Biology Meeting)で発表した。

繁殖の時間を減らした

 彼らは絶滅危惧種とされるパプフィッシュが、これまでいかにして生き延びてきたのかを解明しようとした。パプフィッシュがもともと生息していたのは、広くて水温が低い湖。これが1万年という比較的短い期間で、水温が35℃にも達する砂漠の小さな池へと変貌していった。

 この環境の変化に、パプフィッシュは行動を変えることで適応してきたらしい。この魚は浅くて水温の高い岩棚で繁殖するが、そこにいる時間を極力短くしていることが判明した。すると、必然的に稚魚の数は減る。生息域の減少に加え外来種にも脅かされるパプフィッシュにとっては、深刻な問題だ。

フリーラジカルを作らないようにした

 こうした状況でパプフィッシュがなんとか生き延びているのは、可塑性と呼ばれる生理学的な機能によるものだとファン・ブリューケレン氏は話す。自然界における可塑性の例として、環境に応じて冬眠するかしないかを選べる生物や、十分な餌がない場合に幼生を共食いする生物(スキアシガエル科のオタマジャクシなど)が挙げられる。状況によって柔軟な行動をとるということだ。

 パプフィッシュの場合、可塑性が呼吸に表れた。正確には、「呼吸をしないこと」と言った方がいいかもしれない。取り入れた酸素を使って有機物を分解すれば効率的にエネルギーを生み出せるが、高温の環境下にある魚にとっては危険な行為となりうる。タンパク質や細胞膜、DNAを傷つける化学反応性の高い分子、フリーラジカルが大量に生産されてしまうからだ。

 フリーラジカルによる損傷を減らすため、パプフィッシュは酸素を必要とする好気呼吸と、酸素を必要としない嫌気呼吸(人間も激しい運動をすると、筋肉に届くよりも速く酸素が消費されるので嫌気呼吸を行う)を不規則に交代で行う。嫌気呼吸は連続で5時間に達することもある。

 パプフィッシュはこの過程でエタノールを生産し、これを用いて有機物を分解することで、酸素を取り入れなくてもエネルギーを得られる。ファン・ブリューケレン氏らは、過酷な環境でパプフィッシュが生きながらえてきた秘密の一つがこの嫌気呼吸だと考えている。

苦渋の選択だった

 しかし、これには難点がある。ファン・ブリューケレン氏らの研究によれば、パプフィッシュが嫌気呼吸でエネルギーを得るためには、好気呼吸中の15倍もの代謝機能を働かせる必要があるのだ。

「生物は時として、嫌々ながら“まだまし”な選択肢を選ぶよう強いられます。パプフィッシュの場合は、かなり酷な選択だったといえるでしょう」とバン・ブリューケレン氏。好気呼吸を抑えることで細胞へのダメージは減るかもしれないが、嫌気呼吸が影響してパプフィッシュの寿命が短くなっている可能性もある。パプフィッシュにとって嫌気呼吸は「死ぬよりはまし」という程度の策に過ぎないが、気候が激変する中で、それ以外に選択の余地はなかったようだ。

「時おり、この“諸刃の剣”と言える無酸素状態で泳ぐパプフィッシュを目にします。人間が息継ぎなしでぐんぐん泳いでいるようなものですよ。とんでもない能力です」とファン・ブリューケレン氏は語る。

文=Jennifer S. Holland/訳=高野夏美

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