高さ200メートルを超す高層ビルが続々と建設されているニューヨーク。この街で生まれ育った作家のピート・ハミルが、変わりゆく故郷への思いを語る。

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New ニューヨーク

高さ200メートルを超す高層ビルが続々と建設されているニューヨーク。この街で生まれ育った作家のピート・ハミルが、変わりゆく故郷への思いを語る。

文=ピート・ハミル/写真=ジョージ・スタインメッツ

 私はニューヨークを拠点とするジャーナリストだった。だが、メキシコの人々や音楽、料理や文学に夢中になり、バルセロナやローマ、プエルトリコ、アイルランドでも暮らしたことがある。戦争取材のためにベトナムや北アイルランド、ニカラグア、レバノンにも出かけた。どこででも、私は自分の足で歩き回った。フランス人が言うところの「遊歩者」だ。そして、何かを見るだけではなく、深く理解しようとした。

 数年前にアイルランドの詩人シーマス・ヒーニーの言葉を読んで、自分のような人間の特性が明瞭にわかった気がした。
「あなたが確固たる根をもち、それと強い絆で結ばれているなら」と、ヒーニーは言う。「あなたの一部は常に開かれている。世界を歩き回ることができる。なぜなら自分が属する場所、帰るべき場所を知っているからだ」
 私が帰るべき場所は、間違いなく、今でもニューヨークだ。

新しい超高層ビルが林立するマンハッタン

 年を取ってくると、驚嘆の念に悲嘆が混じることが多くなる。目にしたものに心が沈むのだ。わが愛するニューヨークは好ましからざる状況にある。確かに学校教育や食料事情、人種間の関係、治安、さらにはマナーに至るまで、改善されてきた点も多い。私の若い頃よりも、街は豊かで健全になった。

 しかし、ビルの外観は以前より冷たく、よそよそしく、人間味が薄れた。まるで、私たちをあざ笑っているかのようだ。マンハッタンでは、新しい細身の超高層ビルが空を遮り、かつては日差しに恵まれていた通りに、長く尊大な影を落としている。私のような路上を歩く庶民から見ると、新しいビルの大半には建築学上の美しさはなく、せいぜい工学技術の優れた見本といったところだ。わが愛するブルックリンにさえ、大きな箱形のビルが増えつつある。私を元気づけてくれた故郷の大空は消えつつあるのだ。

 なじみの古いビルに代わって、最高90階もある新しいビルが、ニューヨークの空に向かって林立している。マンハッタン全体が新しいビル群によって輝いているかのようだ。そのガラスの壁面は、晴れた日には、私たちの目をくらませる。

 そうした超高層ビルの入居者たちは、大部分がとんでもない金持ちだ。中国、メキシコ、ブラジル、ロシアなど、外国出身のエリートも多い。ビリオネアズ・ロウに立つ高さ426メートルの88階建てビル、432パーク・アベニューはその最たる例といえよう。偉そうにそびえ立つこのビルは、まるで、わがニューヨークに向かって中指を突き立てているかのようだ。
 噂によれば、57階建てのウールワース・ビルの最上階を占める834平方メートルの住戸は、1億1000万ドル(132億円)出さないと買えないそうだ。正直に言うと、私もそんなところに住んでみたい。

 新しい超高層ビル群が、遠い将来、古いビルに私が抱くような愛着を人々に抱かせる可能性はある。しかし、そんなことは起きないだろう。なぜなら、その顔とも言うべき外観が総じて無表情だからだ。つまり、人間の愚かさや不完全さ、下世話さや貧しさを完全に拒絶しているように見えるのだ。そこに住む多くの人がずっと住み続けるつもりはないとの調査報告もある。彼らはPTAや町内会に参加することも、近所のデリの主人と知り合いになることもないだろう。彼らは私たち庶民とは切り離された、垂直の要塞に住んでいる。さぞや寂しいに違いない。

※この続きは、ナショナル ジオグラフィック2016年2月号でどうぞ。

編集者から

 ニューヨークは何ともダイナミックな都市です。2011年9月11日の同時多発テロで大きく傷ついたのは確かですが、その傷を乗り越えて、新しい活力にしているように思えます。この記事で紹介している超高層ビルの建設ブームも、不屈のニューヨークの一面でしょう。
 空撮の名手であるジョージ・スタインメッツの写真は、常に生まれ変わり続けるこの大都会を見事に切り取っています。必ずしも超高層ビルの写真ばかりではありませんが、ニューヨークに登場する注目の新顔を紹介していて、まさに「Newニューヨーク」の感があります。
 そしてしかし、スタインメッツの写真に負けないくらい、ニューヨークの変化を味わい深く教えてくれるのが、ピート・ハミルの文章でしょう。ニューヨーク出身で、新聞記者、コラムニスト、作家として長年活躍してきた人物。邦訳されている著作も多いし、映画『幸せの黄色いハンカチ』の原作者としても知られています。ハミルは「ワンダー」と「ネイバーフッド」というキーワードで、ニューヨークの変貌を語っています。感傷をにじませながらも、故郷への愛情が揺らぐことはないようです。そこには、変化するからこそ、この都市は繁栄を続けてきたし、将来もその繁栄は続くだろうという期待がこめられているように思えました。
 特製付録のポスター「ニューヨークの新たなスカイライン」を広げてみてください。近未来のニューヨークを訪れた気分になれるでしょう。(編集S.O)

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