- TOP
- ナショナルジオグラフィック日本版
- 2015年7月号
- 日本のエクスプローラー 「ちきゅう」 挑戦の10年
日本のエクスプローラー 「ちきゅう」 挑戦の10年
世界一の能力を誇る日本の科学掘削船「ちきゅう」。海底下を掘ることで、知られざる地球の姿を解明してきた。完成から10年、謎にどれだけ迫れたのか?
「ちきゅう」は海底の下を掘り進み、岩石や鉱物、生物などのサンプルを採取し、巨大地震の謎を解き、生命の起源に迫り、地球の歴史を知り未来を予測することを使命とする科学掘削船だ。
その「ちきゅう」は究極とも言うべきミッションをもっている。マントルへの到達だ。
今後10年でマントルに到達できるか
地球を卵に例えるなら、マントルはその白身に当たる部分だ。ただし、この卵は半径6400キロ、それも固まっていない高温の生卵ということになる。
マントルは地殻という卵の殻と、核という黄身の間にあって、地球の体積の8割以上を占める。地上からの深さは、深いところで約2900キロ、浅いところなら5~70キロほどのマントルに、人類はいまだ達していない。
「マントルを理解することは地球、そして宇宙を理解することにつながります」
JAMSTEC地球深部探査センターでセンター長代理を務める倉本真一はそう話す。
マントルは主に、かんらん石を多く含むかんらん岩で構成されている。倉本は、掘削をしてそのかんらん岩を持ち帰るだけでは、科学的なおもしろみがないという。重要なのは、そこに含まれる炭素と水だ。
「炭素は138億年前の宇宙創生の初期にできた物質ですが、マントルにある炭素はそれがどうやって地球に集まったのかを解明する手がかりになると考えられます。また、地球には7つの大洋がありますが、ここにある水の量はあまりに少ない。これは、あるべき水が地球の内部にため込まれている可能性を示唆しています」
掘削の候補地には、ハワイ沖、コスタリカ沖、メキシコ沖が挙がっている。実際にどこで挑戦するかは、今後の調査の結果で決まる。
倉本はJAMSTECの次の中期計画が終わる2024年までにマントルに到達したいと思っている。2024年、「ちきゅう」は19歳。科学船としては引退が見えてくる船齢だ。現在のところ、後継となる船の建造計画は日本にもほかの国にもない。我々がマントル到達という科学史にその名を刻む瞬間に立ち会えるかどうかは、「ちきゅう」の今後10年に懸かっている。
【お詫びと訂正】本文3段落目、「この卵は直径6400キロ」は「この卵は半径6400キロ」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。(2015/7/7)
※この続きは、ナショナル ジオグラフィック2015年7月号でどうぞ。
●「「ちきゅう」 “日の丸”科学掘削船の大冒険」連載中!
「ちきゅう」は人間ではありません。排水量5万7000トンを超す船です。だから、未知の領域に挑む研究者や探検家を紹介するシリーズ企画「日本のエクスプローラー」の仲間に入れてしまっていいのか、そんな戸惑いはありました。
しかし、こう考えたのです。この科学掘削船は、「地球の奥深くを見てみたい」「地球の謎を解き明かしたい」という科学者たちの夢を実現するために、世界一の掘削能力を備えて誕生し、日本だけでなく世界各国の科学者たちの探究の舞台として、地球の謎に挑んでいる。だから、「エクスプローラー」と呼んでいいのではないか、と。JAMSTECの地質学者で、何度も乗船したことのある斎藤実篤さんは、「ちきゅう」を「サイエンスを前に進める船」と言います。
完成から10年、地震発生域での地層コア試料の採取や海底下生物圏の探査など、「ちきゅう」にしかできなかったであろう成果を積み重ねてきました。そして今、「ちきゅう」は究極の夢をかなえようとしています。マントルへの到達です。船の寿命を考えると、残された時間は10年だといいます。人類未踏のマントルへの到達を日本の科学掘削船が達成する日を期待しています。(日本版編集長 大塚茂夫)
「日本のエクスプローラー」は雑誌とWebの連動企画です。
雑誌「ナショナル ジオグラフィック日本版」では、エクスプローラーたちの活動を独自取材で紹介します。
世界を駆けまわるエクスプローラーたちを一緒に応援しませんか。