ブームに沸いた民謡酒場

英語版1964年10月号より

2020.12.25
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ナショナル ジオグラフィック英語版1964年10月号より。写真:WINFIELD PARKS
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 鍋料理やお酒を楽しむ大勢の客の前で、扇子を手に踊る女性たち。よく見ると、大広間で料理を運んだり接客したりしている女性も同じ格好だ。「踊り子たちはウェートレスの仕事もする」と、1964(昭和39)年10月号の特集「東京」に書かれている。

 この店はどこにあったのだろうか。写真の説明に書かれた名前は「シチゴサン・カフェ」。場所は東京の浅草だという。それを手がかりに調べてみると、かつて浅草新吉原揚屋町と呼ばれていた地区(現在の千束4丁目)に、「民謡茶屋七五三」という店があったことがわかった。民謡や三味線の演奏、踊りを楽しみながら一杯やれる民謡酒場だ。

 当時は民謡ブームの真っただ中。雑誌『キネマ旬報』の1964年9月上旬号には、七五三を取材したルポが3ページにわたって掲載されている。その記事によると、300人を収容できる百畳敷の大広間は「つねに満員」だった。女性たちは舞台を終えるとお酌をしてくれるが、ナイトクラブのような席料はなく、そうした親近感や庶民性が人気の秘密だという。彼女たちのほとんどが青森県出身で、県の民謡大会の入賞者もいた。

 七五三はその後、客足が減り、1981年に閉店。古い住宅地図を頼りにその場所を訪ねてみると、今は駐車場になっていた。

この記事はナショナル ジオグラフィック日本版2021年1月号に掲載されたものです。

写真:WINFIELD PARKS

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