「東京の文化は興味深い。商業地区や都心部で見かける若い世代は、ほとんどが欧風の装いだ。しかし、下駄履きに洋服の男もいれば、着物に靴を履き、山高帽という姿も見かける。

 人々の家庭生活はどうだろう。豊かな人々の家は新しい洋風建築だが、必ず和室がある。畳敷きの和室には、ごたごたと並べられた家具も絵画もない。あるのは、床の間の絵と、ひと鉢の生花、そして静寂。疲れたビジネスマンは、家に帰れば快適な着物に着替え、家族と共に昔ながらの和室で過ごすのだろう」

1933年に掲載された別の記事では、着物を着てちゃぶ台で食事をする家族の様子が紹介されている。(NATURAL COLOR PHOTOGRAPH BY KIYOSHI SAKAMOTO/National Geographic 1933年3月号「長い歴史をもつ若い国、日本」より)

「東京で最も有名な商店街の銀座は、地震と火災で完全に破壊された。しかし今日では、美しい街路に様々な建物や大きな百貨店が立ち並ぶ。やや高額だが、品質の良い商品のみを扱い、いつでも人であふれている。路面電車にバス、タクシー、自家用車、そして世界中から集まってきたかと思うほどの自転車が走る。東京の自転車乗りは、欧米のサーカス団よりも巧みに自転車を操る。ソバ屋の出前持ちは、人ごみを縫うように走り、しかも丼を載せた盆を3 段に重ねて走る。こんな光景を東京ではよく見かける」

1927年竣工の駒形橋。1923年の関東大震災後、隅田川に架かる橋は掛け替えられた。(EWING GALLOWAY/National Geographic 1933年3月号「長い歴史をもつ若い国、日本」より)

シカゴ風の銀行、パリ風のカフェ

「東京の中心にある皇居。周囲をめぐる濠の石垣は、地震にも耐えた。古い石垣と水面に映る松の姿が美しい。

 点々と木々の散らばる広場をはさんだ皇居の向かいには、ビジネス街の丸の内が広がり、東京駅や大きなオフィスビル、帝国劇場、銀行などの建物が立っている。すべて西洋建築だが、どことなく日本的な雰囲気を帯びている」

東京・日比谷にある帝国劇場。現在の建物は、1966年に建て替えられたもので、写真は同劇場の戦前の姿だ。(THOMAS W. MCKNEW/National Geographic 1932年2月号「今日の東京」より)

「東京にはパリのカフェを模した珈琲店がいくつもあり、いつでも『モボ』や『モガ』で込み合っている。モボはモダンボーイ、モガはモダンガール。日本人は略語好きだ。洋服に身を包み、開放的な欧風の習慣を取り入れようとするモボやモガは、東京の最も現代的な一面を示している」

現在の東京証券取引所の前身である東京株式取引所。生糸、砂糖、米などの主要産物のほか、株式・債券も取引した。(WIDE WORLD PHOTOGRAPH/National Geographic 1932年2月号「今日の東京」より)

「新しいものと古いもの、東洋と西洋。この街では、様々なものが共存している。西洋思想が広まり始めて1世紀にも満たないことを思えば、そこに東洋思想が見え隠れするのは当然だろう。

 英国の作家キップリングはかつて、西洋と東洋がまみえることはないと言ったが、それは誤りだろう。東京では両者が出合い、その理想が融合し、新たな文化が発展したのだから」

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