小舟を操る船頭の先で白波を立てる急流。京都を流れる保津川の川下りだ。1959(昭和34)年12月号の特集「世界をめぐった1年」の1枚。
この臨場感あふれる写真を撮影したのは、当時の英語版編集長で、ナショナル ジオグラフィック協会の会長でもあったメルビル・B・グロブナー。妻とともに世界一周の旅をしている途中で、日本に立ち寄った。日光や鎌倉、箱根を経て、最後に訪れたのが京都。そこで夫妻は友人に誘われて、保津川の川下りを楽しんだ。だが、妻のアンにはそれ以上に印象に残ったものがあったようだ。「宇治の市街地の近くにお茶の産地̶あらゆる種類のお茶を買えるし、お茶のキャンディや抹茶アイスまである」と旅のメモに書き残している。
当時は35ミリのフィルムが使われていた時代。もともと写真家だったグロブナーは、世界一周の旅でコダクロームなど、数種類のカラーフィルムを使っている。この写真がどのフィルムで撮影されたかは不明だが、日本各地をめぐったときには、新しく手に入れたエクタクロームの高感度フィルムも試しに使っていたようだ。「これで雨の日でも晴れの日でも撮影できる」とグロブナーは喜んでいた。
この記事はナショナル ジオグラフィック日本版2022年7月号に掲載されたものです。