高くそびえる石垣の下で、たくさんの人たちが熱心に何かを見ている。囲いの真ん中にいるのは、頭を突き合わせた2頭の牛たち。これは沖縄で人気の娯楽、闘牛だ。本土復帰前の日常をレポートした1969(昭和44)年9月号の特集「沖縄、国のない島」に掲載された。
闘牛といっても、対戦するのはスペインのような牛と闘牛士ではなく、牛と牛。「勢子(せこ)」と呼ばれる闘牛士が大きなかけ声であおると、牛同士が頭で押し合ったり、角をからませたり、腹を角で突いたりする技のかけ合いが繰り広げられる。「流血はほとんどなく、どちらか1頭が疲れて勝負をやめると、もう1頭の勝ちになる」と写真の説明にある。簡単にいうと、逃げた方が負けというわけだ。
闘牛場の場所は「中城(なかぐすく)城の近く」だと、元の記事には書かれているが、調べたところ、石垣の形や看板の位置などから、うるま市にある14世紀頃の安慶名(あげな)城跡だということがわかった。
うるま市は闘牛がさかんな街で、2007年にはドーム型の闘牛場が新たに完成し、年間20回ほどの大会が開催される。安慶名の闘牛場は使われなくなり、2020年に入って感染症の流行による中止もあるが、闘牛は今も沖縄の人々に親しまれている。
この記事はナショナル ジオグラフィック日本版2020年6月号に掲載されたものです。