ナショナル ジオグラフィック英語版1945年11月号より。写真:WILLARD PRICE
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 立派なお堂の前で拝む和服姿の女性たち。一見ありふれた光景だが、ここはかつて東京の日本橋にあった百貨店、白木屋の屋上だ。お堂は「白木観音堂」と呼ばれ、観音像をまつっていた。1945(昭和20)年11月号の特集「現代日本の素顔」に掲載された一枚。

 この観音堂が建てられた経緯は、江戸時代までさかのぼる。言い伝えによると、日本橋で呉服商を営んでいた白木屋の2代目の時代に、この地で井戸を掘削していたところ、地中から観音像が発見され、その後まもなく良水がこんこんと湧き出してきたのだという。それ以来、観音像は白木屋の守り本尊として信仰されてきた。

 屋上の観音堂は昭和初期に建てられたものだ。戦後、白木屋が東急の傘下に入った後も残ったが、1999年の閉店とともに姿を消した。

 観音像はその後、東京にある浅草寺の淡島堂に遷座された。観光客でごった返す浅草寺本堂の付近とは対照的に、淡島堂の参拝者はまばらだ。静まり返った堂内に入ると、観音像は左奥に安置されていた。高さは20センチほどだろうか。江戸から平成まで白木屋の長い歴史を見守ってきた観音様は、都会の片隅で今も大切にまつられている。

この記事はナショナル ジオグラフィック日本版2020年3月号に掲載されたものです。

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写真:WILLARD PRICE