• トラの親子、スティーブ・ウインター氏撮影

    インドに生息するベンガルトラの撮影を依頼された際、スティーブ・ウインター氏はぜひともトラの親子を撮りたいと考えていた。だが、まもなく絶望的な事件が起きる。プロジェクトの最中に、子育て中のメスが1頭ならず2頭も殺されたのだ。1頭は交通事故死で、もう1頭は家畜を襲った報復で殺された。

    ところがその後、幸運が舞い込んだ。撮影場所だった公園の園長が、メスのトラと子どもが洞窟に潜んでいることに気づいたのだ。洞窟は、そのメスが4年前に生まれた場所だった。ウィンター氏は毎日午前5時半に起き、ゾウに乗って森の奥深くにある洞窟まで23日間通い続けても、子トラの顔を撮影できずにいた。

    24日目、ウインター氏が見上げると、母トラのお腹の横に小さな耳がのぞいていた。子トラが乳を飲みに出てきたのだ。「600ミリの望遠レンズを装着したカメラを構え、急いで何枚か撮影しました」とウインター氏。しかし子トラは人間に気づくと、洞窟の中に戻ってしまった。

    子トラが撮れたかどうかは確信が持てなかったが、ウインター氏は万一に備えてカメラからメモリーカードを取り出し、大切にしまった。3時間後、キャンプに戻って確認すると、努力が報われたことを知った。「この写真を見たときには、子どものように泣きました」と氏は言う。「諦めなければ、必ず結果はついてきます。奇跡は起こるのです!」(PHOTOGRAPH BY STEVE WINTER)

  • キリンと飼育員、エイミー・ビターリ氏撮影

    野生動物飼育員のレクピナイ氏にもたれてキスをする、親を失ったキリンのトゥイガ。ケニアのナムニャック野生動物保護区で。

    写真家のエイミー・ビターリ氏によれば、トゥイガは、ケニア北部でリハビリを受けて野生に戻された4頭のキリンのうちの1頭だ。キリンは地上で最も見分けやすい動物のひとつであるにもかかわらず、その研究は驚くほど進んでいないと氏は言う。実際、キリンはすべて同じ種なのか、それとも一部の科学者らが主張するように4種に分類されるのかという議論もあるほどだ。(参考記事:「キリンは1種でなく4種との報告、遺伝子解析で」

    いずれにせよ、キリンの密猟は大きな問題だ。ゾウやサイほど注目されていないが、この世界一背の高い動物は、過去30年間で4割も減少している。(PHOTOGRAPH BY AMI VITALE)

  • センザンコウ、ジェン・ガイトン氏撮影

    「センザンコウは、奇妙さと素晴らしさが絶妙に組み合わさった動物です」と、写真家でナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーでもあるジェン・ガイトン氏は言う。哺乳類でありながら、うろこで覆われ、非常に長い舌を持ち、独特な歩き方をする。身を守る唯一の方法は、体を丸めて硬いよろいをまとったボール状になることだ。「センザンコウには近い仲間の動物がいません。まったく独特な存在なのです」

    ガイトン氏はこの素敵な生き物に長年ほれ込んでいるが、これまで出会った人の多くはセンザンコウなど聞いたこともなかったという。「『違います、違います。ペンギンじゃなくて、パンゴリン(センザンコウの英語名)です』と何度言ったことか」と笑う。

    不幸なことに、センザンコウはアジアの野生動物市場ではよく知られており、8種すべてが絶滅に追い込まれつつある一因となっている。(PHOTOGRAPH BY JEN GUYTON)

  • オランウータン、ティム・レイマン氏撮影

    ティム・レイマン氏が撮影した、林冠(森林の枝葉が茂る最上層)へ登っていくオランウータンの写真は、言わば30年がかりの成果だ。

    なぜなら、レイマン氏が最初にカリマンタン(ボルネオ島インドネシア領)に心を奪われたのは、研究助手として働いていた1987年のことだからだ。数年後、氏は博士論文のテーマにした「絞め殺しの木」と呼ばれるイチジク属の研究のためにグヌンパルン国立公園に戻り、このときにロープを何本も使って巨木に安全に登る方法を覚えた。その後、レイマン氏はオランウータン研究者のシェリル・ノット氏と結婚し、妻の研究を手伝うため毎年のように同地を訪れ、燃えるような赤い毛をした森の住人の写真を撮るようになった。

    しかし、この地域や動物を熟知していたにもかかわらず、望み通りの写真が撮れるまでには何十年もかかったという。「本腰を入れて木の上から野生動物の写真を撮るようになったのは1990年代のことです。それからすぐに、広角レンズを使って野生のオランウータンのクローズアップを撮影するというアイデアが浮かびました。1994年には、失敗はしましたが何度か初期の試みを行っています」とブログに書いている。「ですから私の最近の仕事は、20年以上もこのようなショットを夢見て、頭の中で計画を練り続けた結果です」(参考記事:「オランウータン驚異の木登り、こうして撮った」

    レイマン氏は、実のなる木の大枝にGoProカメラを固定し、地上からWiFiを介してシャッターを切るという方法によって、上の写真をついに撮影。別カットは賞を獲得した。「写真の多くはぼけていて、オランウータンが幹の反対側を登ってカメラに写らなかったこともありました」と氏は書いている。「しかし、そのうちの1枚が、若いオスの“ネッド”がカメラの近くを通り過ぎたまさにそのとき、オランウータンが本領を発揮している完璧な瞬間をとらえていたのです」(PHOTOGRAPH BY TIM LAMAN)

  • トビネズミ、ジョエル・サートレイ氏撮影

    オオミミトビネズミが見つめているのは、ジョエル・サートレイ氏のカメラレンズに映る自分の姿だ。

    サートレイ氏は、ナショナル ジオグラフィックの「PHOTO ARK:動物の箱舟」プロジェクトの一環として、絶滅の危機に直面する何千種もの生物を世界中で写真に収めてきた。実は、最近このプロジェクトの1万種目にあたるポートレートを撮影した。コドコドと呼ばれる、南米に生息する小さなヤマネコだ。(参考記事:「南米の小さなヤマネコ「コドコド」、Photo Arkついに1万種に」

    しかし氏が一番興奮したのは、2017年にロシアのモスクワ動物園を訪れた際に、トビネズミと少しの時間を一緒に過ごしたときだと話す。「ほんの数分の出来事でした。撮影用のテントの中にいる間、この上なくかわいらしかったんです」

    オオミミトビネズミのパラボラアンテナのような耳は、獲物の昆虫に狙いを定めたり、モンゴルや中国の砂漠で体温を一定に保ったりするのに役立っているのではないかと科学者は考えている。残念なことに、この珍しい動物の生息地は、すでに開発のために破壊されつつある。「侵入する人間とともに増えた野良猫による深刻な被害も、野生のトビネズミのさらなる減少につながっています」とサートレイ氏は懸念する。(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NATIONAL GEOGRAPHIC PHOTO ARK)

  • マウンテンゴリラ、インゴ・アーント氏撮影

    写真家のインゴ・アーント氏は、ルワンダの霧深い山岳地帯の熱帯雨林を3時間も歩き続け、開けた場所の端に腰を据えた。すぐ近くをメスのゴリラ数頭とその子どもたちが歩き回っており、氏は何枚も写真を撮った。

    「すると突然、3メートルも離れていない場所で茂みが揺れ、シルバーバック(成熟して背中の毛が灰色になったオスのマウンテンゴリラ)が顔を出しました」とアーント氏は振り返る。「数秒の間、私たちは互いに目を見つめ合いました。普通のマウンテンゴリラなら避ける行為です」

    成熟したオスのマウンテンゴリラは体重150キロにも達し、通常は温和だが、いざとなれば大変な力を出せることは明らかだ。「非常に親密な瞬間でした」とアーント氏。「周りの世界が静止したかのようでした。2枚しか写真を撮れないうちに、この群れのリーダーは引き返し、茂みの中に消えました」

    人間に近い仲間であり、これほど力強い動物に、ここまで近づけたときの感覚は決して忘れられないとアーント氏は語る。(PHOTOGRAPH BY INGO ARNDT)

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絶滅危惧種に光を当てる新たなプロジェクトの一環として、ナショジオで活躍する写真家6人が最も思い出深いショットの裏話を語る。

文=JASON BITTEL/訳=山内百合子

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