地球のいのち

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人間が地球上で生き残るためには、どうしたらいいのでしょう?

 どんなに医学や科学、技術が発達しても、我々人類が地球に生かされている限り、森の中に棲む“寄生虫”のような立場でしか生きていけないのです。さらに一歩進んで考えると、寄生虫としてこの星で生きていくためには他の寄生虫、何よりも守主の森と共生していく必要がある。しかし、人間は自分だけが地球上で生かされているというエゴがあります。

 『ソロモンの指環 動物行動学入門』などの著書で知られるオーストリアの動物行動学者コンラート・ローレンツ※3氏は、ヘビとカエルの間には微妙な共生関係があると指摘しています。ヘビの数が増え過ぎて、カエルがヘビの10分の1以下の数になると、ヘビはカエルを探せなくなるそうです。そうなると最初に生態系から消えるのはカエルではなくヘビになる。ヘビが減ると今度はカエルが増えて、またヘビが増える。これが生物社会の原則なのです。

 つまり、人間が生き残るためには他の動物や植物も大切な「共生」仲間になっているということでしょう。他の生物との共生こそが、命の大切さを実感できる唯一の証しなのです。

共生のための森林作りなのですね?

 私が「森林を作れ!」とばかり言うので、そのことだけを短絡的に考えている、とまわりから言われることがあります。もちろんもっと別な発想もあると思います。しかし、限られた時間の中で、自分と愛する家族のために何ができるかという本質を考えると「木を植えろ!」に行き着くだけのことです。

 奇跡的に生命の伝承がなされて地球は続いてきました。次は、この奇跡を未来に残していかなくてはなりません。このかけがえのないいのちを繋いできた遺伝子を守らなくてはならない。その遺伝子を守る唯一の行動こそが木を植えることであり、森を作るということです。

 人類が誕生して500万年ぐらいは、森との共生も実にうまくいっていました。もちろん、他の動植物との共生も自然の摂理の中でバランスが保たれていました。しかし、いつしか大切な森は邪魔ものになっていきました。邪魔もの扱いしたのはほかでもない人間です。大切な森に寄生して、生き長らえてきた人間が次第に森を破壊し、都市を作っていった。そしてその破壊行為を文明と崇めてしまった。これが間違いの始まりだと思います。

 少なくとも、私たちの祖先は大切な森を「神木」「神の宿る森」といって崇めていました。繰り返しますが、一番大事なことは「地球もいのちも続いている」ということです。いのちを継続させるためには小手先の対応ではダメだということです。 特に日本人は、小手先の対応はできるのですが、基本を押さえていません。哲学を押さえていないとしっかりした対応ができないのです。

それはどのような哲学なのでしょうか?

 ヨーロッパでアカデミックな大学ができた8世紀や12世紀に、イタリアにも学校ができました。初めはフィロソフィー、日本語にすると哲学を学びました。そこから工学も医学も経済も理学も派生していきました。その根本を忘れ「私は工学、私は経済、私は医学の博士である」ということにばかり腐心しているのが現在の実態ではないでしょうか。

 細分化は大事ですが、元は生命であり、その源は地球であるという原点を押さえ、そこからどのように発展したかを知り、絶えず見直しながら未来に向かってどうするかを考え実行しなければならないはずです。

文明を作ってきた結果、人間は成長してきたというプラスの面もあるように思いますが?

 地球という星を“いのちを紡ぐドラマの舞台”であると例えましょう。
その舞台でドラマを演じるのは自分たち人間だと疑いもなく考えています。私たちが「地球の主人公」だという自負があるのなら、地球のすべての場所で起こっていることに責任を持つ必要があります。そして「主人公」であったとしても、「征服者」ではありません。もし地球を「文明という道具」で征服したと思っているなら、それこそ「驕り」です。そんな驕りはすぐに捨てなくてはいけません。

 実は、この地球上で生物が生存できる空間はあまり広くはないのです。
大気圏を最大に考えても、地上から高度1万メートルまで、水の中もせいぜい水深1万メートルぐらいでしょう。私たち人間は地上数十メートル、地中でも数メートルの限られた空間でのみ生存しています。地球の規模から換算してもあまりに微々たる範囲で暮らしているのが実態です。さらに地球の表面積の7割は水圏で、その大半は海です。その限られた薄っぺらい地表にへばりつくように寄生して生きている人間が、間違っても地球を征服できるはずがない。

 人間は生態系(ecosystem)※4の中で、単に“消費者”の立場で生かされているだけなのです。

※3 コンラート・ローレンツ(1903~1989年)オーストリアの動物行動学者。近代動物行動学の祖

※4 生態系(ecosystem)この言葉はイギリスの生物学者アーサー・タンズリーが1935年に提唱した。宮脇氏は区分の中で人は「消費者」であるとしているが生態系を大きく分類すると生産者、消費者、分解、還元となることから「消費者」と限定している。

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