地球のいのち

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「いのちを活かす」それが生物多様性保全の本質

ウジやカイコの「いのちの力」が、人間生活にこんな形で役立っているなんて感動的ですね。

野生のカイコの幼虫は、繭になる前に休眠ホルモンを生産してからサナギになるのをご存知ですか?岩手大学農学部の鈴木幸一教授は、細胞を眠らせることができるなら、がん細胞も眠らすことができるのではないかと発想しました。カイコの休眠ホルモンをラット(ねずみ)のがん細胞に投与したところ見事にがん細胞が休眠状態になったのです。

従来からある抗がん剤は細胞を殺すための薬なので、正常細胞にも影響が出るし、大きな副作用もあります。ところが、休眠ホルモンを使ってがん細胞を眠らせてしまえば、副作用のない画期的な制がん剤がつくれるのではないかと世界中から注目されています。このような生物多様性のなかから生まれる持続可能なモノづくりのヒントは、昆虫だけではなく自然界の中に満ちているはずです。昨年、4人の日本人がノーベル賞を受賞しました。ノーベル化学賞を受賞した下村脩氏・米ボストン大名誉教授のオワンクラゲの発光物質に関する研究は、生物多様性を考えるうえで象徴的です。

まさに日本のいのちの力に関する研究の成果ですね。

昨年脚光を浴びた日本人科学者の多くは「いのちの力」に着目したといえるでしょう。

人間の皮膚細胞から胚性幹細胞(ES細胞)と遜色のない能力を持った人工多能性幹細胞(IPS細胞)の開発に成功したのは、京都大学の山中伸也教授。理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの若山照彦さんは体細胞クローンマウスを誕生させることを世界で初めて成功させ、絶滅したマンモスの復元も可能ではないかと夢を見させてくれました。東京海洋大の吉崎吾郎さんは「ニジマスを生むヤマメ」の研究。バイオファーム研究所代表取締役・遠藤章さんは血液中のコレステロールを下げる特効薬のもとになる物質「スタチン」の発見など、まさにいのちの力に関する話題で目白押しでした。

日本は「いのちの力」に関わる研究分野が強いのでしょうか?

日本が持つ農林水産系の知財は強いと思います。例えば、植物細胞の細胞壁をつくる炭水化物のセルロースは非食用のバイオマス資源で、これを使ってバイオ燃料を作ろうという研究が行われています。従来は硫酸などを使って分解する必要がありコストがかかりすぎましたが、シロアリに共生している微生物で処理をすると、あっという間にセルロースからバイオ燃料やバイオプラスチックの原材料を作ることができます。日本がシロアリの研究を続けてきたからこそ実現できたことで、農林水産系の研究所に使われないまま眠っていた知財が、今まさに「いのちの力」として再評価され始めました。日本にはまさに「宝の山」が眠っているのです。

「死とは根源的にとてもチャーミングなもの」

赤池さんは「千年持続学」を御提唱されています。これは具体的にはどのような学問なのでしょうか?

「千年持続学」は実学でもあり、哲学的な学問でもあります。近い将来、天然ガスや石油など地球のエネルギー資源は枯渇していくのは間違いありません。200年後の未来の子孫が生きていくためには、持続可能な生物資源に依存していく必要があります。

千年持続学会では命の力、持続可能な産業に転換するための研究開発が重要なミッションであると考えています。

哲学的な側面とは、どういうことなのでしょう?

命というと、個体の一生に目が向きがちですが、持続可能であるということは健全な世代交代が図られていくことなのです。千年持続学会で取り組んできた哲学研究のひとつが「死のサイエンス」です。人工知能やコンピューター技術が進化し、理論的に仮想環境のなかで生命を設計する場をつくれます。そこに例えば「死なない生物」というものを設計して入れたとすると、常識的に考えれば死なない生物がその仮想環境のなかでは覇者になるはずです。資源が無限に供給される条件下では実際にそうなります。ところが、地球と同じように資源が有限な環境であるという条件を組み込むと、死ぬ生物の方が逆に生き残ってしまう。死を通じて世代交代が起こり、変動する環境や資源制約に耐えられる変異個体が生まれるからです。

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