地球のいのち

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動物界の3分の2を占め、180万種以上が生息しているといわれている「昆虫」。
その生態や能力は、いまだ数多くの謎に満ちており、生物学者や環境学者の間では未来における最も可能性を持った未活用資源として、その存在が注目されている。昆虫のもつ無限ないのちの力が、私たちの暮らしにどう活かされているのか。生物学者であり、ユニバーサルデザインの第一人者でもある赤池学氏にその現状と展望をお聞きした。

昆虫のサバイビリティ

なぜ昆虫は生存競争に勝ち続けてこれたのでしょう。

昆虫がなぜサバイバルに成功したかというと、いくつもの理由がありますが、一番のポイントはやはり、特定資源に依存しないことに尽きます。

たとえばチョウの場合、幼虫期には植物の葉っぱを食し、成虫になると花のミツを吸う。なぜそのような生態なのかというと、一年中花が咲いていたり、葉が青々としているということは、自然界にないからです。

1年を通し限られた季節にしか存在しない資源を食糧にし、それがなくなったら、そのあとやってくる季節の資源を食糧にして生きていく。今まさに、これと似たような選択を私たち人間も強いられています。それを推し進めていくと、生命地域(バイオリージョン)が有する制約に人間社会や生活のあり方を適合させていこうというバイオリージョナリズムにたどり着くしかないのです。

私たちに身近な昆虫といのちの力についてお聞かせください。

たとえばアリは、なんで大雨が降った時におぼれないのでしょう。

アリは体表面の構造が撥水力をもっていて、空気の膜をつくることで冠水時にもサバイバルしているのです。大昔、生命体は海の中にいたわけで、それがなんとか陸に上がって気孔や肺で酸素呼吸するように進化しました。しかし大雨が降ると、また海の中に追いもどされたのと同じ状況になってしまう。そこで、進化させた酸素呼吸を維持するための技術開発をするわけです。

身近な虫に着目して、そのような仕組みを持っているのはなぜなんだろうと考えるのは、とても面白く、ビジネスのヒントにもなるんですね。

そうした感覚は子供の頃からお持ちでしたか?

子供の頃、タマムシをきれいな虫だと思い、捕まえました。そして「なんでこんな風にキラキラ光るのだろう?」と考えるわけです。

タマムシは天敵を威嚇したり、求愛行動のために光を利用していますが、進化の過程でなぜこのようなことを思いついたのだろうと考えてみると、おそらく体に有益な波長は吸収し、有害な波長を遮断するために最初の技術開発があったはずです。

熱や紫外線は吸収しないで反射する。そういう生存のための技術から始まって、それを威嚇や求愛に二次利用するようになったわけです。技術開発の始発駅には、「必然」が存在するのです。

私が子供のころは、近くの養蚕農家でカイコを飼っていたし、里山を歩いていると、葉っぱをクルクルまいて産卵するオトシブミに感動し、アワフキムシはなぜ泡を隠れ家に使っているのだろう、などということをいつも考えていました。

たとえば、アワフキムシの場合、泡は空気の層なので、保温性が高く外気温の変化に耐えられ呼吸もできる。泡が割れるときには超音波が出て、自然の洗浄力が生まれます。企業では某会社がそれに着想を得て泡のお風呂を開発しています。子供がバスタブに落ちても溺れないし、保温性は高いし、洗剤を使用しなくても身体のアカが落ちてしまう。昆虫は自然界のメカニズムを巧妙に、しかもシンプルに利用しているのです。

動物の75%は昆虫ですが、なぜ他の生命体に比較して昆虫だけがこれだけ多く生存しているのでしょうか?

たとえばゾウは地上で最大の動物ですが、今ではインドとアフリカにしか生息していない。あれほど大きなゾウを地球が許容できるのは2種類だけだということです。

政治の話にたとえると、よく小さい政府の方がいいと言われます。生物も小さい方が少ない資源に依存できるため、適応性に優れていると言えるでしょう。そして、小さな昆虫は多様な資源や環境と対峙するために、その技術開発も卓越しています。3億年という長い時間をかけて磨き抜いてきた技術の集積体が、実は昆虫と呼ばれるグループなのです。

嫌われ者のハエの幼虫であるウジは、さまざまな家畜の糞を微生物の力で堆肥に変えることができます。通常、完熟堆肥になるまでに2,3カ月かかります。ところが、堆肥にイエバエの卵をまいたところ2日後にウジがわいてきていろいろな分解酵素を出し、糞を食べて堆肥に変える。堆肥になるまでに、たった1週間しか、かからないのです。

この速成完熟堆肥で有機農業を行い、宮崎県ではウジ虫もまた利用して地鶏を育てておいしいスモークチキンを作っていますよ。

忌み嫌われているウジから地鶏が育ち、地場産業に貢献しているのですね。。

この研究は、農業利用だけにとどまりません。菌だらけの糞に住むウジや昆虫からは、さまざまな抗菌性のタンパク質が既に発見されています。このタンパク質を使い、抗生物質に耐性を持つMRSA(黄色ブドウ球菌)のような細菌やウィルスに効く薬の開発も進んでいます。

最近、日本人の研究者がカイコのシルクタンパク質から、抗アレルギー性やUVカット作用、細胞の活性作用などの機能を見つけて、化粧品に応用したりしています。さらにアンチエイジング(抗加齢)や再生医療の原料にもなっているのです。

昆虫の力も素晴らしいですが、そこに着目した生物学者たちの感性がすごいですね。

なんでカビ菌だらけの糞の中で昆虫の幼虫たちは病気にならずに生きていけるのか。

カイコは、炎天下の桑畑で子孫のために糸を吐いて繭を作っている。それなら、いろいろな微生物対策、カビ対策、紫外線対策が施されているのではないか。彼らは、こう考えたのです。

生物多様性について考える際、生物そのものや生態系の保全は当然必要ですが、同じような感性で生物資源を持続可能な方法で利用することが必要なのです。

昆虫に象徴される生物の力に改めて向き合い、そのすごさを学ぶ。「いのちの力」を活かした循環型社会を作っていくことが、生物多様性を保全していくうえでもっとも大切なことです。

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