/2005年3月号

トップ > スペシャル > 地球からの警鐘 > 日本の外来種




特集

侵略的外来種 日本編

MARCH 2005

文=芳尾 太郎

本は四方を海に囲まれた島国。その閉じられた世界で、長い年月をかけて豊かな生態系が築かれてきたが、経済大国への道を歩むなかで、様々な侵略的外来種が持ち込まれてきた。小笠原諸島のトカゲ、トマト農家に必要な欧州原産のマルハナバチなど数々の事例を詳しく紹介しながら、島国ゆえの問題とその対策を考える。

 12月の底冷えのする朝6時半、東京都の目黒区にある東京工業大学を訪れた。正門を入ってからイチョウ並木を5分ほど歩いていくと、異様な光景が目のなかに飛び込んできた。1000羽を超える鳥が3、4本のイチョウの木に群がっているのだ。薄明かりのなかでも、鮮やかな緑の体に赤の嘴が目立つ鳥だ。

 一羽一羽は「キヨキヨキヨ…」と鳴いているようだが、無数に重なってとても騒がしい。鳥の数の多さとあまりの騒がしさにあっけにとられながら、しばらく見入っていた。

 ワカケホンセイインコと呼ばれる全長40センチほどのこの鳥は、原産地のインドやスリランカでは、農作物に被害を与える害鳥として扱われている。日本にペットとして持ち込まれたものが、野生化したらしい。30年近く前からこのイチョウの木をねぐらにするようになり、毎日、夜明けの数十分の間、騒いでは四方へ散らばり、夕方に戻ってきては再び騒々しく鳴く。

 じっと観察していると、遠くでカラスの鳴き声がした。すると、騒がしいインコたちは水を打ったように鳴き止んだ。「集団になる理由の一つは、カラスなどの天敵から身を守るため。近寄ってきたカラスを集団で追い払うこともあります」と、このインコの生態を調査している東工大助教授の幸島司郎さんは話す。

 木のまわりを飛び回っていたインコは、数十羽ずつひと固まりになって徐々に飛び去り、7時半頃には1羽もいなくなった。後に残ったのは、葉のないイチョウの木と、鳥の糞と羽毛で白くなったアスファルトの道路だけだった。

 島国の日本は古来、海という障壁に守られて独自の生態系を育んできた。だが裏返して言えば、ずっと守られてきた分、ひ弱でもある。

 鎖国が解け明治時代になると、海外との貿易が盛んになり、多くの生物が海を越えて日本に持ち込まれるようになった。財務省の貿易統計によると、現在、日本に持ち込まれる「生きた動物」の数は年間5億5000万に上る。そのうち、昆虫や甲殻類など「その他の生きた動物」が大半を占め、イヌやネコなどの哺乳類が61万、カメ類が63万などとなっている。

 大量に持ち込まれた外来生物のうち、野外に放出されたりして日本の環境に適応し、定着してきたものもいる。日本生態学会が編集した『外来種ハンドブック』によれば、明治以降に国内に定着した外来生物は2200種を超える。ところが日本にすみついた生物のなかには、人間の生活や在来の生物に大きな影響を与えるものが少なくない。それらが今、問題となっている「侵略的外来種」だ。

1/6 pagesNext


ナショナル ジオグラフィック バックナンバー