/2004年9月号

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特集

温暖化4
日本の取り組み

SEPTEMBER 2004

文=芳尾太郎(日本版編集部)

球温暖化の進行を抑えるため、日本はどんな手を打っているのか。政府がその柱にすえているのが、「京都議定書」で決めた温室効果ガスの削減目標の達成だ。(この記事は2004年9月号に掲載されたものです。)

 京都議定書は1997年12月、京都で開催された国際会議「気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)」で採択された。世界各国で分担して、二酸化炭素やメタン、代替フロンなど6種類の温室効果ガスを減らそうという取り決めだ。最初の目標として、先進国全体で2008?12年までの年平均排出量を90年比(代替フロン等3ガスは95年を基準にできる)で5%以上削減することが掲げられた。

 各国・地域の削減目標はEUが8%、米国が7%、ロシアが0%。日本は6%減で合意した。すでに欧州や日本などが議定書を批准しており、ロシアの批准を待って発効する予定。発効しなければ法的拘束力はないが、それでも日本政府は温室効果ガスの削減に取り組む。

国内排出削減分は0.5%

 日本にとって、増え続けている温室効果ガスの排出をマイナスに転ずるのは容易ではない。政府は、どのような方法で6%減を達成するのかを細かく示した「地球温暖化対策推進大綱」を1998年に策定、2002年3月に改訂した。たとえば、自動車の燃費改善で約1390万トン(二酸化炭素換算)を削減、各家庭でシャワーを1日1分、家族全員が減らして93万トン(同)を削減するといった具合だ。

 大綱が掲げる削減策は、議定書の本来の目的である国内での排出削減と、それ以外の対策に分けられる。6%のうち前者で0.5%分を、後者で5.5%分を削減する。

 国内での排出削減目標は次の通り。化石燃料の利用で生じる「エネルギー起源の二酸化炭素」は90年レベルに維持。「非エネルギー起源の二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素の3ガス」は基準年の総排出量の0.5%分削減する。「代替フロン等3ガス」は同2.0%分の増加に抑える。さらに、技術開発や国民の努力で2.0%分削減する。合わせて0.5%分だ。

 残り5.5%の達成方法は以下の二つ。一つは、既存の森林を管理すれば削減分とみなすことができる「森林吸収源」の適用。国際交渉の末に認められたこの手段で、日本は目標削減量の6割以上に当たる3.9%分をまかなう。

 そしてもう一つの手段は、海外で削減分を補える「京都メカニズム」。外国の余った削減分(排出権)を買ったり、外国と共同で植林など排出削減の取り組みをして、その削減分を両国で分配することが認められている。すでに政府はブータンでの水力発電プロジェクトなど八つの案件を承認しているが、本格的な活用はこれからだ。日本はこの京都メカニズムで6%のうち1.6%分を補う算段だ。

 森林吸収源と京都メカニズムは達成が見込めるが、問題は国内での排出削減だ。2002年の国内の温室効果ガス排出量は13億3100万トン(二酸化炭素換算)で、基準年に比べて減るどころか、7.6%も増加している。

 なかには、すでに目標が達成できそうな分野がある。たとえばオゾン層を破壊するフロンの代わりに冷媒などへの利用が増えている代替フロン等3ガスは、エアコンなどからの回収率を高めるなどの対策が進み、排出量を大幅に減らしている。ところが一方で、総排出量の90%近くを占めるエネルギー起源の二酸化炭素の排出が12%も増えている。

 なかでも運輸部門が90年比20%増、民生部門(家庭)が29%増と著しい。ハイブリッド自動車など燃費のよい自動車や省エネ住宅、省エネ家電の開発が進み、普及しつつあるものの、それ以上に世帯数や自家用車の台数の増加が大きい。2000年の人口は90年比で2.7%増なのに対し、世帯数は15%、自家用車保有台数は29%といずれも二桁の伸びだ。一人ひとりが積極的に生活を変えていかなければ、温暖化は抑えられなくなっている。

 こうした背景を受け現在、環境省や経済産業省が大綱の2度目の見直しを進めている。最大の焦点になっているのが温暖化対策税だ。家庭や自動車などで排出される温室効果ガスの量に応じて課税する政策で、「炭素税」などとも呼ばれる。すでに欧州などでは導入が進んでいる。

 この税制を導入すれば、化石燃料の価格などエネルギー消費のコストが上昇し、省エネ効果があると環境省は期待する。現在提案されているのは温室効果ガス1トン(炭素換算)当たり3000円程度の税率で、ガソリン1リットル当たり約2円の価格上昇となる見込みだ。

 これに対し、産業界は一貫して反対している。日本経済団体連合会(経団連)は「景気回復に水を差す」と猛反発し、経済産業省も否定的な立場だ。「課税によって海外との競争力が落ちれば、その産業は打撃を受ける。生産が減って温室効果ガスの国内排出は減るだろうが、減った生産を海外から輸入するのであれば、その分排出を海外に移しただけで、日本にとって単なる痛みでしかない」と、経済産業省の岸本吉生環境経済室長は話す。

 6%減の目標を達成できなければ、次の約束期間にさらに高い目標値が設定されるうえ、国際交渉でもマイナスになる。結局は強引にでも帳尻を合わせることになるだろう。

とても小さな一歩だが

 しかし、京都議定書はわずかな一歩でしかない。温暖化を止めるには温室効果ガスの排出量を現在の50%以下に減らす必要がある。2012年までの取り組みを2150年まで何度も繰り返してやっと、気温が今より2~5℃上昇したところで安定すると考えられている。

 さらに、米国やオーストラリアといった温室効果ガスの排出大国が京都議定書から離脱したため、京都議定書の実効性はさらに小さくなってしまった。

 米国は世界全体の二酸化炭素排出量のうち、最も多い約24%を排出する(右ページ)。議定書の策定時には7%削減で合意したものの、途上国の削減目標がないことや、自国の経済に悪影響を及ぼすなどの理由で2001年に議定書を離脱した。この動きに追従するように、オーストラリアも離脱してしまった。

 一方で、途上国が温室効果ガスの削減に消極的なことも今後の温暖化対策に影を落としている。途上国にしてみれば、膨大な化石燃料を消費して地球温暖化を引き起こしたのは先進国であるとの思いが強い。そのため2012年までの第一約束期間では、これらの国々の経済発展を妨げないよう削減の約束は見送られた。しかし、そこには世界第2位の排出国である中国も含まれており、その排出量は年々増えている。先進国が排出削減の努力をするほど、途上国の総排出量に占める比率が高くなる。次の約束期間でこうした国々を参加させることが課題だ。

 京都議定書に距離を置く国がある一方で、積極的にさらに高い目標を掲げる国もある。

 たとえば、ドイツはEU内の目標で2008?12年に温室効果ガスを21%削減することを約束、2002年までに18.9%減らした。英国もEU内で12.5%の削減を約束し、すでに14.9%の削減に成功している。

 両国とも京都メカニズムを利用せずに目標を達成できる見込みだ。ドイツは旧東ドイツのエネルギー効率の低い環境を改善することで大幅に排出量を削減した。英国では、先進国の責任として2050年までに自国の排出量を60%削減するという大目標を掲げ、対策に取り組んでいる。すでに温暖化対策税を導入しているほか、火力発電から天然ガスによる発電へとエネルギー転換を急速に進めている。

 環境省の清水康弘地球温暖化対策課長はこう話す。「日本も目の前の6%削減だけにとらわれず、50年、100年先を見すえた対策が必要です。現状では社会制度が温暖化に対応したものになっていない。たとえば電力を使うほど使用料が高くなるとか、渋滞の激しい地域で料金を徴収して交通量を抑制するなど社会システム自体を変えていくことが必要です」


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